第41話 くるみ割り人形 第一幕(二) それぞれの振付

第一幕一場


 シュタールバウム役は青葉徹あおばとおる、その奥様として花村あやめ。


 シュタールバウム家の広間には、きれいに飾り付けられたクリスマスツリーがあります。広間にはたくさんの客人が集まり、子供たち同士で遊んだり、大人たちも皆楽しそうに話をしています……


シュタールバウム役のとおるの挨拶でクリスマスパーティーが始まります。


◇◇◇◇◇◇

『行進曲(マーチ)』の曲から『ネズミの王様たちとくるみ割り人形とおもちゃの兵隊たちの戦い』の前まで

◇◇◇◇◇◇


 子供たちと小学生、中学生の子供グループと高校生、大人、スタッフの大人グループに分け、子供グループを古都が、大人グループを徹が手際よく振り付けていく。

大人グループにはゲストダンサーの雪村希ゆきむらのぞみ月原静つきはらしずかが入り、子供グループには栗原寿恵くりはらとしえが入る。


 クララ役の浅香由奈あさかゆなとクララの兄フリッツ役の美川信也みかわしんやの二人は美織みおり瑞希みずきが演技を付けていく。

 やさしく素直な女の子そんな雰囲気をかもし出すような仕草や表現を美織みおり由奈ゆなに伝えていく。

 少しやんちゃで元気いっぱいのフリッツを瑞希みずきが信也に教える。他の男の子たちの元気な演技も瑞希が振り付けていった。


 全体を真理子と青葉あおばが前で見ている。

 その横で衣装の由香が、また頻りにメモを取っている。ときどき真理子に話しかけ出演者と今回の舞台での役の人数、大人の客人は何人か? 子供の人数は何人か? 公演は二日間にわたり四回公演になる予定だった。二日間で客人や、たくさんの人数で踊る踊りについてダブルキャストにしているということだった。

 主要キャスト、踊りは一人で四回出演ということだった。つまりクララは四回とも由奈、金平糖の精は四回とも園香そのかということになる。

 教室の端の方でげんが優一にドロッセルマイヤーの演技指導をしていた。


◇◇◇◇◇◇


 恵人けいとが真理子と青葉あおばのところで少し話をした後、園香そのかのところにやって来た。

「この前のアダージオもう一度合わせようか?」

「はい」

「ん?」

「うん」

「そうそう」

アダージオはこの前と同じようにできた。リフトもまったく危なげなくできた。


「いいね。練習してたんだね」

「うん、アダージオは優一さんが踊ってくれて、金平糖の精のヴァリエーションとコーダは美織みおりさんが見てくれて……」

「この前より上手になってるよ」

「ありがとう」

微笑む園香そのか


「コーダは一緒に踊るんだけど、ほとんど個人個人でテクニックを見せる感じでしょ。コーダはどんな感じで練習してる? たぶん男性パートは僕も優一さんとほとんど同じことすると思うけど……園香ちゃんは」


「グランフェッテ。舞台を上奥かみおくから下前しもまえに斜めに移動しながら……」


「ええ、あの美織みおりさんがやるやつ?」

「うん」


「すごいね。園香ちゃんってテクニックで見せるダンサーなんだ」

「いえいえ」


「じゃあ、その後はアントルラッセで上奥かみおくに行って、もう一回下前しもまえにトンベ、パドブレ、グリッサード、グラン・パデシャ」

「うん」


「で、グラン・ジュテ・アントゥールナンでマネージュ」

頷く園香。

「そうか、美織さんと優一さんがいつもやってるやつだね」

「それ、いつも同じなんですか。あの二人」

「うん、一緒だね。ヴァリエーションなんかも一緒だよ。日によってとか、舞台によって変えてるって感じじゃないみたい」

「へえ、そうなんだ」


「最後はリプカやろうか」


「え?」


「え、最後はどうしてた?」

美織みおりさんと優一さんは二人で中央に来てピルエットからポーズ」

「ああ、だいたいあの二人最後はそれでまとめるよね。でも優一さん瑞希みずきちゃんと踊るときは少し変えてたりするんだよ」

「ああ、最後はなんか瑞希みずきさんがジャンプして、それを受け止めてポーズみたいな」

「ああ、それ、リプカでしょ。受け止めたあと優一さんが瑞希ちゃんを太腿ふとももの上に乗せて、瑞希ちゃんは片足を優一さんの背中に掛けるようにして上体を起こして正面を向いてポーズを決めるドンキとかでやるやつ」

「あ、そうそう『ドンキ』のアダージオでもやるやつ」

園香がそれだという顔で言う。

頷く恵人。

……

「え? それやるの?」

「うん」

「ああ、優一さんどっちでもできるでしょ。あ、それと美織さんもできるよ『くるみ』でやってないだけで、瑞希ちゃんに教えたのも美織さんだよ」


できるかな……

園香の心の中に少し不安がよぎった。


 その表情を読まれたかのように、恵人けいとが園香に微笑みながら言う。、

「できるよ。やってみよう」

頷く園香。


「グリッサードから足を開かないで、僕の前で軽くジャンプして。そしたら僕が園香ちゃんの両足を左脇の下に滑り込ませるから右足を僕の背中に巻き付けるように左足はまっすぐ伸ばす。腹筋と背筋で上体をキープする正面客席を見る」


 振り子のように、一気に後ろに、そして上体が恵人のひざの位置まで低くなる。

「上体を起こして正面を見る」

……

「そう」


リプカ……


 正面の鏡に『ドン・キホーテ』で見てきた華やかな技。やってみたいと憧れた技。今、恵人が園香から両手を離し左脇だけで支えキープしている。


 右手と左手で抱きかかえる様にアラベスクに戻してくれた。

 足をそろえ二人でルべランス(お辞儀)。恵人が舞台の中央前まで園香をエスコートする。

 そして男性の恵人が女性の園香より一歩下がり二人でお辞儀をする。


――――――

〇トンベ

 足を一歩踏み出すように移動する動き。右足を四十五度くらいの高さに出し。その右足に体重移動。その時、左足はひざを伸ばすようにして移動する動き。

――――――

〇パドブレ

 五番のポジションから前の足(右)をドゥミ・プリエ、後ろの足(左)をクペ(ひざをくの字に曲げつま先を前の足(右)のくるぶしあたりに付ける)。そこからクペの足(左)のつま先を付けると同時に右足もつま先立ち、両足でつま先立つ様にして足を踏み替えながら移動する動き。

 ドゥミ・プリエ ひざかかとが上がらないところまで曲げる。

――――――

〇グリッサード

 足を踏み出すとき軽くジャンプするように移動する。踏み出す足は床をこするように滑らせひざを伸ばした状態で四十五度くらいの高さに上げ、上げた方の足に軽くジャンプするように移動する踏み切った足を移動した足に集める。

――――――

トンベ、パドブレ、グリッサードはジャンプの前などの助走として、この三つの動きを組み合わせることが多い。

――――――

〇グラン・ジュテ

 ジャンプの一種。両足を前後に開いた形で跳躍する。その時前に振り上げる足はひざを曲げることなく伸ばしたままの状態で床をこすり上げる様に振り上げる。跳躍中は後ろの足もひざを曲げず両足を前後に張るようにキープする。

――――――

〇アントゥールナン

 回転をする動き、テクニック。

――――――

〇マネージュ

 舞台を大きく円を描く様に回りながら、ジャンプ、ターン、あるいはそれらを組み合わせてテクニックを見せる。

――――――

〇リプカ

リフトの一種。

 男性右足を伸ばした状態で、左足のひざを曲げ腰を下げる。このとき男性の左足の太腿ふとももの上に女性の右足の太腿ふともも・腰近くが乗るようにする。男性は左太腿ふとももに乗せた女性を左脇で押さえるようにして、両手を女性から離し手は広げるポーズを取る。


 女性は右足のひざを曲げ男性の背中に回すようにする。この時女性の上体は男性の伸ばした右足の方向、左足は男性の左肩の上、顔(頭)あたりにくるようにする。体全体が斜め下に向かうような形になるが、腹筋と背筋で上体を起こし舞台の正面を見る。あるいは斜め下に上体を向けるが、いずれの場合でも上体をらせるように起こす。


 いろいろな作品のアダージオで使われるが、このリフトが一番「どうなってるの?」「どうして女性が落ちないの?」と思われるリフト。


――――――

 いろいろな説明で左右を使い分けているのは説明がしやすいため。もちろん左右両方あり、振付によりダンサーにより説明とは反対の場合もあります。

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