第40話 くるみ割り人形 第一幕(一) 演技

 最初のシーンはシュタールバウム家で催されるクリスマスパーティーのシーン。


 キッズクラスの小さな子供たちは、普段、顔を合わせることのない小学生高学年や中学生、高校生のレッスン生、大人クラスの人達と芝居の練習をすることが楽しくてしょうがない様子だ。


◇◇◇◇◇◇


第一幕 一場


 雪の舞うクリスマス・イヴ。

 シュタールバウム家でクリスマスパーティーが催されます。たくさんの客人、子供たちが招かれています。雪の降るクリスマス・イヴ。客人たちが次々にシュタールバウム家にやってきます。

 そして、最後にシュタールバウム家にゆかりがあって、いつもパーティーに招かれているドロッセルマイヤーがやってくる。


◇◇◇◇◇◇


 小さな子供たちと大人クラス。小学生と中学生。高校生と小さな子供たち、それぞれに数組のグループを作り、雪が舞う中、シュタールバウム家に向かって行く場面の練習する。


 青葉あおばがキッズクラスの子供たちから大人まで全員を集めた。園香そのかや奈々、千春、バレエ教室のスタッフも全員が集まる。

 子供を連れて来たお母さんたちも興味深そうに見ている。


「皆さん、第一幕は演技がたくさんありますね。演技は自然に見えるように、ぎこちなくないように見えなければなりません。慣れるまで何度も何度も練習するんです」

頷く生徒たち。


「でも、自然に見えるって難しいんです」


 雪を手に取る演技や、雪を舞い上げる演技を青葉がやって見せる。そして、小さな子供や小学生にやさしく問いかける。

「みんなさん、雪って、どんなだろうね」


「冷たい」

「ふわふわしてる」

「真っ白」

子供たちが口々に言います。


「じゃあ、冷たかったら、雪を投げた後、どうする?」


服で手を仕草しぐさ口元くちもとに両手を持っていき息で温めるようにする子供たち。

「そうねえ」


「じゃあ、ふわふわしてたら、雪を舞い上げた後、どんな風にその雪を見る?」

子供たちは雪を頭の上に投げ上げるようにした後、宙に舞う雪を見上げるような仕草をした。


青葉あおばは頷きながら、


「じゃあ、雪が真っ白だったら、どんな風にする?」


 一人の女の子が手に取った雪をジッと見つめ、近くの女の子のところに持っていき何かを話すような仕草しぐさをした。

 大人クラスの人達に手に乗せた雪を見せるような仕草をするキッズクラスの子供たち。大人たちも笑顔になる。


「いいわね。上手、上手」

青葉あおばが褒める。子供たちは楽しそうに演技をする。


「じゃあ、場面を考えてみましょう」


……少し通りを歩くような演技をする青葉あおば……それはまるで雪の降った道を歩いているようにみえた。

 雪の降ってない道を歩いているのとは違う。かといって不自然に雪が降っていることをわざとらしく見せるでもない。

 ほんの少し足元を気にしているように、しかし、過剰に滑るのを怖がるような風でもなく、まるで雪を見たことがない人のようでもなく、雪に慣れきった人のようでもない。


「今日はシュタールバウムさんの家のクリスマスパーティーに招かれています。今日はクリスマス・イヴです。そのパーティーに向かう日に降ってくる雪です」

手のひらを上に空を見上げるように……

……

「学校へ行く朝や普段の日に降っている雪ではないの。この雪はクリスマス・イヴの日……クリスマスパーティーに向かうとき降っている雪です」


 生徒たちがそれぞれ演技をしてみる。まるで青葉あおばの一言一言が魔法であるかのように、その稽古場の空間が、どこか特別な場所のように、生徒たちはその世界に引き込まれていった。

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