第6章 くるみ割り人形 第一幕 振付

第39話 メッセージ 青山徹

 花村はなむらバレエでバレエ歴の長い生徒は二度、三度と『くるみ割り人形』の全幕の舞台経験があった。

 いろいろなゲストの先生から指導され、それぞれの演出で『くるみ割り人形』を演じた経験があった。


 まず最初に、青山青葉あおやまあおば青山徹あおやまとおるが『くるみ割り人形』の第一幕のストーリーと舞台の流れを説明する。


とおるがやさしく言う。

「私たちがあなたたちバレエを長くやられてる方々に『くるみ割り人形』の話をするのは、決して、あなたたちに対して『本当にくるみ割り人形を知っているんですか?』などと思って、上から説明しているのではありません」

……

「おそらく長くバレエをされていらっしゃる方ならチャイコフスキーの三大バレエといわれる『くるみ割り人形』は見たことも、出演されたこともあるでしょう。でも、あなたがチケットを渡して見に来てくれる多くの人はバレエなんて知らないし、興味もないし、まして『くるみ割り人形』なんて名前は知ってるけれどストーリーなんて知らない。あなたに招待されたから来るんです……そんな方々に一時間以上も舞台を見て頂くのです」

……

「舞台に立つ人が『当然知ってる』『言われなくてもわかってる』という気持ちでは、見ている人に伝わらない。あなたが招待したお客さまには、あなたを見にくる楽しみだけ……バレエやその物語の魅力は伝わらないと思います。何度も何度も物語を考え、どう表現するのかを考えて練習を重ねることで初めて見る方に魅力が伝わるのではないかと思います。魅力です。細かいお話の内容ではなく、この物語、皆さんが創り出す『舞台上で繰り広げられる世界』の魅力です」

……

「何度も何度も考え、曲を聴き、練習をして表現してください。チャイコフスキーとの対話です……『一曲』『一曲』その一つの『音』の表現に、あなたたちも名前を聞いたことがある世界中で活躍しているバレリーナ、活躍してきたバレエダンサーたち、演奏家たちが自分のすべての技術をかけて演じてきた、演奏してきた作品です」

……

「今回はあなたたちの踊り……その一曲一曲を、五十人のオーケストラの演奏家が演奏します……ただのお手伝いのスタッフじゃありません。あなたたちと同じ……一人一人が小さい頃からその楽器を毎日毎日先生に注意されながら練習し、数えきれないほど舞台で演奏し、コンクールにも出演してきた……普段ならステージの上で演奏されている方たち五十人の演奏家が客席から見えないオーケストラピットで、あなたたち一人一人のために演奏してくれるのです」

……

「そうそう、ただのお手伝いスタッフじゃないといえば……衣装の来生由香きすぎゆかさん。なんで一緒に来ているのだろうと思われた方もいるかもしれませんね……衣装の採寸さいすんをして衣装を作る人……そう思われるかもしれませんが……もちろんそうですが……彼女が舞台のそでにつけば……あなたが舞台で二曲続けて出番があると言われれたら、一曲目が終わってそでに戻ってきたとき、お客様の拍手が鳴りやむまでに舞台のそでで次の曲に間に合うように衣装を着替えさせてくれますよ。うちのバレエ団の団員が絶大な信頼をしている衣装副監督……彼女はバレエ団最高の舞台衣装のプロです」

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