第35話 大学のキャンパスで

 園香そのかは午前中は大学の授業に出る。大学に入って今までの生活と随分変わった。五月はあっという間に過ぎた。


 窓から外を見ると授業がないのか二人の男子学生がベンチでジュースを飲みながら話をしている。そこへ二人の女子学生が近づいてきて笑いながら話し始めた。


「今晩、飲みに行くで」「うん、わかった。先に着いたら飲みよってよ」「ごめん私今日バイトやきよ」「終わったらいや」「うん」……


ワイワイと盛り上がっている。


そんな学生を見ながら、あれが普通の大学生活を送っている学生なんだな……

園香そのかはそんな風に思った。


 今日は夕方からアルバイトだった。バレエの練習はない。町の飲食店でアルバイトをしている。

 七月の半ばにバレエフェスティバルがある。そして青山青葉あおやまあおばバレエ団の公演もある。楽しみであるがお金がかかる。それまであと少しだがアルバイトで旅費を作ろう……バレエ教室でも手伝いをしているが、それは本当にお手伝いだ。


 昼休み学食で学部の友達三人と昼食を食べる。三人とも地元の『よさこい祭り』に参加するのを楽しみにしているという。

「いいね。楽しいよね。夏って感じ、私もお祭り好きよ」

「園ちゃんバレエやってんのやてねえ」

「え? ほんと。私もやりたい」

「え? 真美ちゃんバレエやりたいの?」

「私やっててんで」

「え、最近までやってたの? 小さい頃やってたとかじゃなくて」

「うん、小さい頃やってただけ、今はもうできひんし。美香先生とこな」

「美香先生?」

「通信講座やないで」

「いいよ、それは」

「赤ペンで添削してくれんで」

「いいって、それは……でも、いいじゃない来なよ」


「よさこい祭り終わったら私も見学行っていい……あ、よさこい終わって、帰省して……私、家、藤井寺ふじいでらやんかぁ……だから帰省して、それから」

「え? ま、まあ、いいよ。いいよ」


 そういう園香は思い返せば小さい頃からバレエをしてきて祭りに参加したという記憶がなかった。

 町が賑わう数日間、町に出てお祭り気分を味わう。それが園香の祭り楽しみ方だった。


 そこへ奈々がやって来た。

「おはよう」

「おはよう」

「園香、来週またゲストの先生が来るって言ってたね」

「うん」

奈々が顔を近づけて小声で言う。

「園香、あのゲストの恵人けいと君と連絡取ってるの?」

「まさか」

瑞希みずきさんもいるからしてもらえば脈あるんじゃない」

「なに言ってるの」

 奈々は東京へは行かないという。奈々は同じ学部の林田はやしだという男子学生と付き合っている。

 奈々はバレエに対して自分なりに距離感を取りながら、プライベートも大事にしながらやっていきたいというスタンスらしい。


 そこに奈々の彼氏である林田がやって来た。爽やかなスポーツマンタイプのイケメンだ。テニスをしているという。奈々に紹介され何度か話をしたことがある。やさしく、気さくな男性だ。

「園香ちゃん。バレエ頑張ってるんだってね。主役するって……見に行くからね」


 隣で聞いていた三人の女子が驚いた顔で園香に詰め寄る。

「園ちゃん、主役踊るん?」

「え? そんなすごいん?」

「ええ、聞いてないし、そんなんできるんやったら言うといて。絶対見に行くし」

「あ、ありがとう。じゃあ絶対来てね」


 友達が少ないと自覚のあった園香は、


チケット買ってもらえるかな……


そう、思った。


 そんな日常を過ごしていると、あっという間にゲストのくる日がやって来た。


 今回は週末を挟んで四日滞在するという。今回もまた青葉あおばが来てくれる。第一幕を振り付けるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る