第33話 ゲストダンサーたちが帰るとき

 園香そのか恵人けいとが話をしているところへ優一と美織みおりがやって来た。美織が園香にアダージオが良かったと褒めてくれた。

「園香ちゃん。ヴァリエーションは私と一緒に頑張ろうね」

美織が微笑みながら言う。


 そこへのぞみしずかと一緒に瑞希みずきがやって来た。

「恵人、あんたたち、いつ帰るの?」

「明日かな」

「ふーん、そうなの。じゃあ、コーダは今度やるの?」


「いいかな?」

恵人が園香の顔を窺うように見る。

「うん」

頷く園香。

 一度頷いた後、もう一度、恵人に向き直り改めて丁寧に頭を下げた。

「よろしくお願いします」

「丁寧語じゃなくていいって」

「よろしく」

「そう、そんな感じ」

そう言って微笑む恵人。


 瑞希が恵人に聞く

「あんた向こうでは、今度『白鳥』やるんだっけ」

「うん」

「トロワ?」

「王子だよ」

「え、まじ? もうバレエ団の顔じゃん」

「いや、そんなんじゃないけど」

「オデットは?」

「オデット、オディールは古都ことさん」

「え? あんた、古都ことさんと踊るの?」

「すごいじゃん、恵人。僕も古都さんと踊ったことないよ」

「優一さんは美織さんがいたからでしょ」

「古都さん優しいでしょ」


 園香も聞いたことがある世界的なバレリーナ九条古都くじょうこと。ずっと海外で活躍していたが、最近、日本に帰って来たと聞いた。そんな大スターと一緒に踊ってるのかと驚く。


「ロットバルトは?」と優一が聞くのに瑞希が間髪入れず、

「どうせ、げんさんでしょ」

「どうせってなに、どうせって」

「元さんです」


そんな話をしていると青葉あおばがやって来た。

「園香ちゃん。あなた、とても上手だったわよ」

「ありがとうございます」

「優一さん、コーダは恵人君も同じ振りでいけると思うから園香ちゃんにグランの振り通しておいてあげてくださいね」

「はい」


「あなたドロッセルマイヤーやるの?」

「ダメでしょうか?」

「今度来るとき元さんも来てもらうから見てもらうといいわ」

「ありがとうございます」

聞いていた美織が

「元さんも来て下さるんですか?」

「ねずみの王様……」

青葉の言葉に、瑞希が美織と優一の方に目をやり、

「ああ、すごいねバレエ団のプリンシパル級のダンサーが周り固めるんだ」

微笑みながら青葉が美織と優一に、

「バレエフェスティバル見に行くわね。バレエ団のみんなも楽しみにしているのよ『くるみ』と『海賊』踊るのね。ちょうどよかったじゃない。園香ちゃんも一緒に練習できるじゃない」

美織が頷きながら園香の方を見る。


「真理子先生とあやめ先生にも言ってあるけど、今度は六月の初めに出演メンバーをそろえてきます」


そう言って、青葉はもう一度、真理子とあやめのところに行き、何か打ち合わせをしていた。


恵人が園香にやさしく話しかける。

「また今度来た時よろしくね。東京にも舞台見に来てよ」

「うん」

「そうだ、バレエ団の稽古場にも来ればいいのに」

「ええ? そんな」

隣で聞いていた瑞希が、

「あ、それいいね。そのときは私も行くよ」

「ほんと、ほんと、美織さんと優一さんがバレエフェスティバルで踊る頃、バレエ団の『白鳥』もやってるから、その頃一度来ればいいのに。七月の初めくらいかな」

「バレエフェスティバルの前?」

「そうだね」

 瑞希が園香に「みんなで行こうか?」と言う。突然のことだったが何とかスケジュールを調整して行きたいと思った。

 瑞希はどちらにしても美織と優一の手伝いで付いて行くという。そんな話の後、ゲストダンサーたちは教室を後にした。


◇◇◇◇◇◇


 そして次の日はスタッフと一緒に園香も空港まで青葉とゲストダンサーたちを見送りに行った。

「じゃあ、またね」

恵人が園香に微笑む。

 隣で見ていた瑞希が微笑むように園香の顔を覗き込む。


「な、なんですか」少し慌てる園香。


「顔、赤いよ」

「え……」

「弟だからいつでも連絡できるよ。連絡先教えようか?」

「え、いえ、そんな、教えてもらっても……」

「そう……」

恵人が「いつでも連絡してもらってもいいよ」と言ってくれた。

できるわけない……と思ったが嬉しかった。


 青葉とゲストダンサーたちは搭乗ゲートに向かう。つかの間の出会いだったが、あまりにもたくさんの出来事が起こった。


 このゴールデンウィークで園香の周りはいろいろなことが大きく変わった。

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