第31話 瑞希そして恵人
今日も昨日と同じようにあやめが鏡の前に立つ。バーレッスンが始まるゲストの男性が優一の周りに集まる。
◇◇◇◇◇◇
あやめのバーレッスンの間、青葉が稽古場を回り一人一人丁寧に細かいところを注意していく。バーが終わりセンターに入る前それぞれストレッチに入る。
青葉が由奈のところに行き、
センターに立った時の体の向きについて教えている。アンディオール(足の付け根から足を開くこと)と上半身の使い方、腕の使い方を教えていた。周りにいる小学生は頷きながら、その動きをやってみる。青葉が頷きながら微笑む。
センターレッスンもあやめと一緒に鏡の前で一人一人の踊りを見ていく。千春や大人クラスのレッスン生も丁寧に足の使い方や上半身の使い方、体の向きを細かく指導していく。
◇◇◇◇◇◇
一通りレッスンが終わった後、
美織が昨日と同じように優一と『くるみ』のグランを通す。まったく昨日と同じ、安定した踊り。その後、休憩する時間もなく二人は『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥを合わせる。スタジオが拍手に包まれる。
その後、今日は瑞希がソロヴァリエーションの練習をする『ジゼル』第一幕ジゼルのヴァリエーション。まるでその場が全幕の舞台であるかのような表現力。周りで見ていた生徒やお母さんたちも、まるで舞台を見ている観客のように拍手を送る。
美織がダメ出しをして瑞希が確認しながらもう一度踊る。
そして、オーロラのヴァリエーション。彼女はシルヴィアのヴァリエーションとオーロラのヴァリエーションか迷っていたようだが、最近はオーロラを練習している。
圧倒的な技術力と表現力に周りで見ていた生徒やお母さんたちは拍手をするのも忘れて呆然と彼女の踊りに見入っていた。
そして、思い出したかのように、どこからともなく拍手が起こり、やがて稽古場が拍手の渦に包まれた。ダメ出しをする美織。
練習前の親しみやすい気さくな感じの彼女とはまるで別人の世界に通用するレベルのバレリーナを目の前に見た気がした。
何も言わずに見ていた青葉が彼女に近づいていき、アドバイスをする瑞希は頷きながら聞いていた。注意されたところを確認する。
その後、瑞希が優一と美織に話しかける。
美織がCDデッキにつく。
そして少し動きを確認して、気持ちを切り替えるように、瑞希が青葉と美織。稽古場にいるみんなにお辞儀をする。
「お願いします」
そして休む間もなく優一と『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥを踊り始める。昨日と同じように感じた。アダージオが終わったところで稽古場が拍手の渦に包まれる。
「硬いよ」
美織が瑞希に向かって言う。
優一がバジルのヴァリエーションを踊る。
昨日とはまるで違う。攻める踊り。今日は男性ゲストがたくさんいるからだろうか……周りのギャラリーたちはそう思った。ピルエットなどの回転技も今まで見せなかったほどキレがある。ジャンプの高さも高い、表現も昨日より少しオーバーな感じ。
踊り終わると瑞希の方に目配せして微笑む。
この踊りでどう? とでも言わんばかりの表情で彼女を見る。
昨日より派手なこの踊りは男性ゲストを挑発するものでもギャラリーを沸かせるためのものではない。
青葉の前で緊張している瑞希の気持ちをほぐすためのオーバーな表現。瑞希が優一の踊りを見て微笑み頷く。
それに応えるように瑞希がキトリのヴァリエーションを踊る。先程までの緊張から解放されたように、青葉や美織の指導者の目を気にせず。
その踊りは、町一番の人気者の娘キトリだった。
美織が言っていた「彼女は私よりもテクニックがある。でも、彼女の魅力はテクニックではなく表現力」と……コーダまで踊り終わった彼女は爽やかな笑顔だった。
青葉も微笑みながら瑞希に言う。
「いいんじゃない『ジゼル』と『オーロラ』もいいけど『キトリ』いいんじゃない」
美織も微笑んで頷く。
「ありがとうございました」
瑞希が青葉と美織に頭を下げる。そして彼女の踊りを見ていた見学者たちに丁寧にお辞儀をした。その後、優一にお礼を言う。優一が微笑みながら彼女と話していた。
園香は二人の息の合った踊りに目を奪われながら足を慣らしていた。
すごい……
ポンと肩を叩かれて我に返った。
「すごかったね。今のグラン……ポワント大丈夫」
「はい」
「合わせようか」
そして、恵人と園香がフロアに出る。
美織と青葉が鏡の前にいる。
その横に瑞希が座って見ている。
後ろで優一が見ている。
二人の男性ゲストも優一の横でストレッチをしながら見ている。
周りを埋め尽くすように真理子、あやめの他、花村バレエのスタッフ、ギャラリーたちが見ている。
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