第30話 レッスン前に
レッスン前のスタジオ。
スタジオに男性ゲストの三人がやって来た。小学生の高学年女子や女子中学生がざわめく。
三人は優一の近くでストレッチをしていた。
その姿を見ながら
「
「はい、あの子たちのレッスン見てくださって」
「ええ、一緒にレッスン受けてただけじゃない?」
「まあ、そう言えばそうかな……」
「美織さんって変わってるでしょ」
「え?」
「だって、一回一緒にレッスン受けただけにしては溶け込み過ぎでしょ」
「まあ」
園香もなんとなく瑞希の会話の感じがつかめてきた。年齢を問わず誰に対しても少しお姉さん口調だ。年齢の近い弟がいるからだろうか。
そんなことを思いながら話していると彼女の性格には、まったく嫌味がなくサバサバした感じの彼女は好感が持てる。
「あれ? 今日はいつも一緒にいる彼女はお休み?」
「奈々ですか?」
「そうそう」
「デートじゃないかな? もともとこのゴールデンウィーク中は自由参加のレッスンで……だからクラス関係なく誰でもって感じのレッスンになってるんです。彼女前からゴールデンウィーク中に、どこか出かけるとか言ってたから」
「へえ、彼氏がいるんだ。いいね。彼氏はバレエには理解がある人なのかな?」
「さあ、大学入ってから付き合い始めたんで、私もよく知らないです」
「ふーん、こういう世界にいると公演まで忙しくなるでしょ」
「そうですね」
「大変だ……」
「でも、自由参加のレッスンが突然とんでもないレッスンになっちゃったね」
微笑む瑞希。園香も頷きながら微笑む。
「園香ちゃんは彼氏いるの?」
「え?」
「ん?」
園香の顔を覗き込むように見る瑞希。
「え、いえ」
「じゃあ、好きな人はいるの?」
「いえ……」
下を向く園香に少し上目遣いに見上げるように覗き込んでくる瑞希。
「顔赤いよ」
「な、なんですか」
「やっぱり、
「いえいえ、そんな、あたしなんか」
「わかりやすいね。そう……恵人なんだ。この前も言ったけど、彼女とかいないから。姉が言うのもなんだけど優しいし、いいやつだと思うよ。それに園香ちゃん、おとなしい性格みたいだから、わかりやすいのはいいと思うよ。私みたいな性格でわかりやすいのはきつい感じになるかもしれないけど……」
「そんな、私、瑞希さん好きです」
「……女子にはよくそう言われる」
そう言って笑う。やはり、瑞希は親しみやすい女性だと思った。
そんな話をしているところに恵人がやって来た。
「なに話してるの?」
「園香ちゃんが、あなたのこと好きだって」
「うわああああ」
変な声を上げてしまった。
「ありがとう。僕も好きだよ」
顔を赤くする園香。
「じゃあ、私は
「え? まだ、聞いてないです」
「
「やったらって、ここ
「
「みたいね。でもトレパックなら間に合うでしょ。トレパックの前にはスペインとアラビアと中国があるし、トレパック踊った後は、グランまで、いっぱいあるじゃない」
「なんですか、それ」
「冗談、冗談、トレパックはここの教室の生徒さんがやるんじゃない」
◇◇◇◇◇◇
「園香ちゃん、今日は後で少しアダージオ合わせてみようか」
「は、はい」
恵人に声を掛けられて緊張する園香。
隣でストレッチを始める。
お喋りをしながらストレッチをする小学生や中学生。隅の方に集まって何か話をしながらストレッチをしている高校生。
男子は相変わらずピルエットを回ったり騒々しい。
ゲストの男子二人は瑞希と優一と一緒に何か笑いながら話をしている。美織は子供たちと手遊びのようなことをしている。
稽古場の鏡の前に座って真理子と
確か、小学六年生の
二人の前に呼び出された
「あの子、クララ?」
いきなり隣でストレッチをしていた恵人に話しかけられてびっくりした。
「え?」
「あの子」
真理子と青葉の前にいる由奈の方に目を向けて恵人がもう一度聞く。
「いえ、私はまだ他の人の配役知らないんです」
「そうなんだ。じゃあ、あんまり大きい声で言わない方がよかったかな」
「え?」
「だって他の子も主役が誰になるか知らないんでしょう」
「ええ」
「あの女の子、なんか園香ちゃんに雰囲気似てる」
由奈の方を見ながら、恵人が微笑んだ。
「え?」
しかし、この大勢の中、これから練習が始まるというタイミングで青葉に紹介されるということは、おそらく、そういうことなのだろう。
クララと金平糖の精は同じダンサーが演じることが多いが、今回の花村バレエの演出ではクララと金平糖の精はそれぞれ別のダンサーで演じるということをあやめが言っていた。
そして、金平糖の精は園香ということを早い時期に告げられていた。
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