第25話 喫茶店エトワールでのひととき

 花村バレエのスタッフ全員と青山青葉あおやまあおばバレエ団の四人。京野美織きょうのみおり久宝優一くぼうゆういち河合瑞希かわいみずき。そして、花村バレエでアシスタントをしている佐倉園香さくらそのか牧村奈々まきむらなな

 周りには今日のレッスンに参加していた生徒たちも半分くらいは来ている。更に小さな子供を連れてレッスンの見学に来ていたお母さんたちも子供たちと一緒に来ている。

 喫茶店エトワールは貸し切り状態になった。


◇◇◇◇◇◇


 青葉あおばの隣には美織みおりが座っている。こうして青葉と並んで話をしている姿を見ると、やはり彼女は青山青葉あおやまあおばバレエ団のプリマだったのだということが分かる気がした。

 恵人けいとは優一と瑞希みずきに挟まれて座っている。瑞希はずっと恵人と話をしている仲のいい姉弟きょうだいだ。

 その向かいに真理子たち花村バレエのスタッフと園香そのか、奈々も座り世間話のような会話が続いていた。ちょうど園香の前に恵人が座っていた。


 瑞希が恵人に園香を紹介した。

「彼女が今度の公演で金平糖を踊る佐倉園香さくらそのかちゃんよ」

恵人は改めて園香にやさしく自己紹介してくれた。

河合恵人かわいけいとと申します。よろしくお願いします」

「年は、あんたと同じくらいじゃないの」

「あ、僕この前高校卒業したばかりなんです」

「あ、私もです」

慌てて言葉を返す園香。

「じゃあ、同級生だ……園香ちゃん、なんか緊張してる?」

「え、あ、いえ」

「緊張してるじゃん」

微笑む瑞希。


「はい、お勧めのアイスクリーム。これは皆さんにサービスします」

千春がアイスクリームを持って来た。アイスクリームはここに来ている皆に出されたようだ。


「あれ、ここのお店の方だったんですか?」

瑞希が少し驚いた表情で千春を見る。


「これおいしいんですよ」

奈々が瑞希にアイスクリームの紹介をする。一口食べて瑞希も微笑む。

「本当だ。おいしい。このアイスクリーム何の味なんだろう?」

「アプリコットのシャーベットなの」

千春が言葉を添える。


「アプリコットっていう果物が入ってるんですか?」

瑞希がシャーベットをスプーンに乗せて見ている。隣から恵人が、

「あんずのことだよ」

「……あんず?」

「おいしい果物だよ」


 二人の前で緊張しているのかジッと座っている園香。園香の顔を覗き込むように瑞希が微笑みながら、

「アイスクリーム溶けちゃうよ」

「え」

「あんずが入ってる、アプリコットのシャーベット」

瑞希が園香の前のシャーベットを指差して言う。

 隣の恵人がクスッと笑う。園香も微笑む。少し気持ちが和らいだようだ。


「恵人の前でそんなに緊張しなくていいよ。まだ、会ったばかりだけど、たぶん話しやすいタイプだと思うから」

「は、はい」

下を向く園香。瑞希が少し小声で、

「大丈夫だよ。恵人。彼女いないから」

「え?」

顔を赤くする園香。


「瑞希ちゃん何言ってるんだよ。初対面なのに。ねえ」

困った顔をして園香を見る恵人。

 園香は恵人を見て少し微笑みながら、

瑞希さんのことを瑞希ちゃんと呼ぶんだ……と思った。


「バレエ団のあんたの同級生はきつい子ばかりだもんね」

「まあ、でも瑞希ちゃんの同級生ほどこわくないよ」

「え? あやとか?」

「いや、そんなこと言ってないよ」


慌てて園香の方に向き直るように、

「これからよろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

園香も微笑みながら応える。

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