第21話 ゲストダンサーは誰?

 美織みおり瑞希みずきの準備ができたようだ。優一が園香そのかに優しく言う。

「今日はこんなところでいいかな」

「は、はい。ありがとうございました」

「いい感じだよ。アダージオとコーダは僕が教えられるところは教えるようにするね。ヴァリエーションはあの人が教えてくれると思うよ」


美織みおりの方に目を向ける。緊張する園香そのか


「大丈夫。彼女すごく優しいから。このあと踊るから見とくといい」

「はい。ありがとうございました」


 真理子とあやめも優一のところに近づいてきてお礼を言う。

 優一は二人にお辞儀をした後、美織の方に歩きかけて、思い出したように振り返った。


「あ、そうそう、園香ちゃん。ちなみに今度の『くるみ』の王子役は、おそらく別のゲストダンサーが担当するようになると思うから……」


「え?」

 今、振りを教えてくれた優一が王子をやってくれるものだと思っていた園香は少し驚いた。この言葉にそばにいた真理子とあやめも驚いたが、優一達と一緒にいた瑞希も青天せいてん霹靂へきれきという感じでびっくりしたようだった。


「え! 優一さんがやるんじゃないの?」

瑞希は優一と美織の顔を交互に見る。


「まあ、たぶん……」


「え? たぶんって、それ、どこ情報? 青葉あおば先生?」

瑞希は気になる様子だった。


「うん、まあなんていうか、とおるさんとかバレエ団の人がいろいろ考えてるみたい」


「私、優一さんがやるんだと思ってた。美織さんも知ってたの?」


「いやそれが私も今日の朝知ったの。優一に相談があったみたいで、まだ決定ではないみたいだけど……」


「え? そこまで言うんだったら、決定ではないにしても誰か候補が決まっているの?」


優一の方を見る瑞希。


「ああ、まあ、そうだね」


「誰よ?」


「新人の大スターだよ」


「新人って、さとしとか哲也てつやさんじゃないの?」


「ああ、そうだね」


「誰?」


「まあ、いいじゃない。すぐに来るよ」


何か腑に落ちない瑞希。


「それより『ドンキ』やろうよ」


◇◇◇◇◇◇


 優一が稽古場の後ろの方に立った。瑞希は何か釈然としないまま優一の前に立つ。

美織が三脚にセットしたビデオカメラのスイッチをオンにし、


「じゃあ、お願いします」


と言ってCDデッキの再生ボタンを押した。

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