第20話 レベル優一
センターレッスンまで終える。その後も見学のお母さんたちも帰る様子がない。レッスンを受けていた生徒たちは全員稽古場の鏡の前に座った。
三人は今日のレッスンの後、真理子から稽古場を自由に使っていいと言われていた。どういう訳か、誰から伝わったのか、三人が練習をするということが生徒たちばかりでなく、お母さんたちにも伝わっていた。
「
いきなり聞かれて園香は慌てる。思わず、あやめの方に目を向ける。あやめが代わりに応える。
「いえ、実はまだ……振り、もしよかったらお願いします」
美織と瑞希の方に向かって言う。
美織が微笑みながら
「いいんですか、こちらで振り付け」
「よろしくお願いします」
真理子も言葉を添える。
「園香ちゃん、今から大丈夫?」
「は、はい、でもポワントが」
慌てて立ち上がる園香に美織が微笑みながら、
「いいよ今日はシューズで、優一、大丈夫だって」
「え?」
美織の言葉に驚く園香。
優一が振り付けをするということに戸惑う園香。男性のゲストから振り付けというのはあることなのだが、今回は女性が二人いる。さらに優一とは今初めて少し会話したばかりだ。不安そうな表情をする園香、
「少しだけ振りをさらおうか。なんか、みんなに注目されて緊張する?」
「い、いえ」
「緊張しないで」
「優一さんで大丈夫か不安なんじゃない」
瑞希が笑いながら言う。
「え、あ、そういうこと」
「大丈夫だよ。園香ちゃん。私たちも見てるから、間違ってたら後で私たちが直してあげるから」
「なんだよ。それ」
「そんな不安そうな顔しなくても、アダージオの女性の踊り、私たちもほとんど優一に見てもらっているから、大丈夫だよ」
美織が微笑みながら言う。
◇◇◇◇◇◇
優一が丁寧にアダージオの女性の踊りを園香に伝えていく。
王子が手を差し伸べる。エスコートされるように舞台の中央に出て行く。一旦、左右に別れるよう歩き、向かい合いお互いにルベランス(お辞儀をする)。そして男性が右手を差し伸べる。女性はその手に右手を添えるように取りながら、一歩でシュス。右手は男性の手を取ったまま、左手アンオーで右足はパッセを通ってドゥバン。
男性の右腕の下をくぐるように左回転しながら右足はパッセを通ってアチチュードで男性の肩に左手を置く……
その後、あっという間にアダージオの半分くらいまで振りが通った。美織と瑞希もポワントの準備をしながら園香を見ている。
緊張する……
園香は心臓の音が聞こえるのではないかと思うほど緊張した。
「綺麗だね。園香ちゃん。これからは、いつもポワント持ってなよ」
瑞希が言う。
「今日は急だったからね。これからは私たちが練習するとき一緒に練習しようよ」
微笑みながら美織が言う。
「この後、美織さんと優一さんが『くるみ』のグラン踊るから見とくといいよ」
「ちょっと曲の中で動きを確認しようか」
優一が『くるみ割り人形』のアダージオの曲をかける。振り付けしたところまで曲で園香と一緒に踊ってくれた。優一も女性の踊りを一緒に踊る。
優一の所作の美しさに誰もが息を呑んだ。女性らしいやさしさ、一つ一つの動きの繊細さ。男性の手を取る振りの気品のある所作。隣にいる女性の園香の方が
「男性の方に目を向けるときは、こういう風に見るんだ。村娘や町の娘じゃない。お姫様なんだ」
このバレエ教室に来て、いつも男子たちのピルエットやジャンプの技術を見てあげていた優一と違う。気品のあるお姫様の所作を丁寧に教えてくれた。
前で見ていた生徒たちも、先生たちも、周りで見ていたお母さんたちも、世界で活躍する名門バレエ団のプリンシパルのレベルを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます