第19話 美織たちの目線

 園香そのかはいつものように奈々と一緒にストレッチをしていた。二人とも今日の見学者たちの数に気を取られている。


「いつものようにやろうよ」

美織みおりが園香の隣に来た。園香も奈々も驚いて言葉が出ない、ただ頷くばかりだった。

「私、美織ね。よろしく」

園香と奈々に向かって微笑む。

「私は瑞希みずき。瑞希って呼んでもらっていいから」


「いえいえいえ、瑞希さん……私、牧村奈々まきむらななといいます」

「私は佐倉園香さくらそのかです。よろしくお願いします」


「園香ちゃんと奈々ちゃんね、よろしく」

美織が微笑む。

「はい」「はい」

二人は緊張しながら応える。


「私たちまだいろいろ分からないことだらけだからいろいろ教えてね」

瑞希が微笑む。

園香と奈々はなんと応えていいか分からず頷くばかりだった。


「バー近くでやっていいかな」

「は、はい」

「……なんか緊張してる?」

下を向く様にして頷く園香。美織が微笑み頷きながら、

「私たち来たばかりだからね……仲良くしてね」

頷く園香。あやめがCDを数枚持って教室の前で準備する。


 園香にバーの先頭に立つよう美織が促す。そして後ろに美織が立つ。瑞希が奈々に美織の後ろに並ぶように勧める。そして瑞希が並ぶ。

 少し離れたところに男子三人が並び、その後ろに優一が並ぶ。稽古場の中央あたり、センターのレッスン・バーに大人クラスの千春もいる。バレエ教師の北村、秋山もレッスンに参加している。

 美しく丁寧な美織と瑞希のバー。向きを変えると教室の反対後ろの方にいる優一。近くにいる男子三人もまるで人が変わったように真剣だ。丁寧に一つ一つの動きを確認するようにバー・レッスンを受けている。


 誰もがいつものレッスンと違う、まるでどこかプロのバレエ団のレッスンに参加したような緊張感と神聖さを感じる。

 それを一番感じていたのはあやめだった。全員の動きが未熟な部分はあるものの、きちんと音に合っている、きちんと全員の動きがそろっている。

 バーが終わりセンターのバーを片付ける。センターに入る前、美織が園香と奈々に話しかけてきた。

 バー・レッスンでやったプティ・バトマンや細かく速い足の動きのときの注意をする。

 軸足と動かす方の足のアンディオール(足の付け根からしっかり外回しに回転させるように足を開くこと)、そして動かす足のひざ辺りを触られ「ひざがぶれないように気を付けて」と注意された。

 太腿ふとももの付け根からひざまではアンディオールしながらしっかり固定させる。ひざから下は力を抜いて軽く動かす。動かすための脱力は必要だが、くるぶしから足先までは甲を張り出すようにして、つま先を伸ばす。

 最終的には慣れだと言われた。

――――――

〇プティ・バトマン

 軸足のかかとは床に付けた状態だったり、ルルベだったり(つま先立った状態)するが、動かす方の足はひざを「くの字」に曲げて、足の付け根からひざまでは固定し、ひざから下を動かす。足先(つま先)で、軸足の足首、内側のくるぶし、外側のくるぶしを交互に叩く様な動きを素早く繰り返す。

 このとき、動かす方の足首、甲を張り出すようにする。

 足の細かく速い動きの練習。このとき同時に腕は柔らかく、ゆっくりした動きを合わせて練習することが多い。

――――――


 やさしく声を掛けてくれる美織に園香と奈々も段々緊張がほぐれて親しみやすさを感じるようになってきた。瑞希もけな感じが話しやすさを感じさせてくれる。


 優一は相変わらず男子たちに囲まれている。昨日の帰りに男性ダンサーの技術を教えてあげていたのを思い出す。

 自分勝手に不安定なテクニックを繰り返すという自己流の練習ばかりしていた男子たちだったが、昨日、いつきが六回転のピルエットを回って稽古場にいたみんなを驚かせた。


 いつもいつきと一緒にいる遠藤光えんどうひかるが、五番ポジションからスッとシュスで立つ(両足の内ももを締めてつま先で立つ)。

 そして、一度かかとを床に付き、ドゥミプリエ(ひざかかとが上がらないところまで曲げる)をして力強く床を蹴ってジャンプしたかと思うと美しく空中で二回転回って、安定した五番プリエに着地した。


「おおおおー」

という誰からとも分からない驚きの声が稽古場に響いた。


「いいじゃん。すごく綺麗だよ」

優一がひかるの肩を叩く。


 ザンレールというテクニックだ。まるで王子役のダンサーが見せるような気品を感じさせる美しいザンレールに周りで見ていたものばかりでなく真理子とあやめも驚いた。

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