第15話 レッスンを終えて

 花村バレエで美織みおりのレッスンが終わった。レッスンを受けていた生徒たちが美織みおり瑞希みずきの周りに集まってくる。優一の周りには相変わらず中学生や小学生の男子が集まっている。

 花村バレエの北村と秋山が美織たちのところにやってきた。

「ありがとうございました」

「すばらしいレッスンありがとうございました」

美織は微笑みながら首を振る。

「みなさん喜んで頂けたかしら?」

稽古場を見回すと先程レッスンを受けていた生徒たちが皆それぞれに頷く。

「よかったね。美織さん」

瑞希が微笑む。


 優一は向こうの方で男子に囲まれて、何か男性の踊りの技術を教えてあげている。

北村が二人に聞く

「これからは、いつも来て頂けるんですか?」

「できるだけ毎回来たいです。ただ、私たち三人はここに来る前に受けていた舞台の出演とか、瑞希は挑戦しているコンクールがあるから、その練習が忙しくなったら少し休むようになると思います……自分たちの練習もしないといけないから……」


 北村が興味津々という感じで、

「え? 舞台って」

「七月に『バレエフェスティバル』というのがあって、それに私と優一が出演するようになっていて……瑞希は来年の夏にある国際コンクール……それに向けて国内のコンクールにいくつか出るようにするんです」

「バレエフェスティバルに国際コンクール……すごいですね」

驚いて顔を見合わせる北村と秋山。

 隣で聞いていた園香そのかと奈々も驚いた表情で彼女たちに目を向ける。十数年バレエをやってきた中で自分たちが出会うことがなかったダンサーたちだ。


 瑞希が隣でストレッチをしながら、

「だから私たち普段の練習はここでさせてもらえるとして……コンクール練習と美織さんたちは舞台の練習ができるところを探さないといけないんです」


「ここ使ってください」

「そうですよ。ここで是非」

秋山も横から声をそろえる。


 嬉しそうな顔をして美織の顔を見る瑞希。

「美織さん、ここ使っていいって」

「でも、花村バレエさんのお稽古があるでしょう。わたしたちが使ったら、その時間貸し切りみたいになりますよ。もちろんスタジオの利用料は払いますけど」

申し訳なさそうに美織が北村と秋山の方を見る。


「そんな使用料なんて、ずっとレッスンが詰まっているわけではないですし……ねえ、北村先生」

「もちろん花村先生に相談しないと、私たちだけでいろんなことを全部決めることはできませんが、きっと先生方も快諾してくれると思いますよ」

「そうですよ。生徒のみんなも勉強になるし」

「早速今日から使って頂いてもいいですよ」

北村と秋山が顔を見合わせ頷きながら言う。


「え? ありがとうございます。でも、今日はこれから少し用があって……」

「まだ、引っ越し中なの」


 数時間前にここを訪ねて来たばかりの三人だが、もうスタジオのみんなに受入れられた感じだ。そんな会話の後、また明日レッスンに来ると言って、三人はスタジオを後にした。


◇◇◇◇◇◇


 三人は市内のマンションで一緒に暮らしていた。瑞希はなんだか微妙な距離感だが部屋も何部屋かあるので一室に住ませてもらうことになった。


 二人が帰ったあと北村は花村に連絡を取り、その日のことを伝えた。レッスンをしてくれたことには真理子も驚いた。

 三人が練習するために稽古場を使わせてあげたいという北村の意見には真理子も賛成してくれた。可能な限り時間を調整して利用してもらうようにと言う。

 真理子の考えとしても生徒たちが彼女たちの練習を見ることは、何よりも貴重な勉強になるという思いがあった。


 そんな話を電話でした真理子と北村だったが、真理子は翌日の昼には帰ってくる予定になっていた。

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