第9話 初めてのレッスン 2

「あのぉ」

北村が言いにくそうに瑞希みずきに話しかける。

「はい」

「もし、よかったらなんですけど……次のレッスンやって頂けませんか?」

「え? それは……と美織みおりさん……私も美織さんに見てもらってるから」

「レッスンですか? でも、全然勝手がわからないし……」


 稽古場を見回す美織。レッスン生全員の視線が美織に集まっている。

優一が美織の肩を軽く叩く。

「みんなの期待が集まってるよ。美織ちゃんはそういう存在なんだから、基本的な感じのレッスンでいいんじゃない」

困った顔をする美織に優一が声を掛ける。

「何をするかじゃなくて、どこを見てあげるかじゃない……どこを見る? 全員の全部でしょ。プリマなんだから」


「曲は私の使ってるCD使っていいですか?」

「もちろんです」

三人が稽古場のフロアに上がると、いやでもレッスン生全員の視線が三人に集まる。

 つい先ほどまで普段着で普通の生活モードだった三人だが、今レオタードに着替えてきたばかりなのに床に座るなり前後左右に百八十度足を開く。左右横に百八十度開いて体を前の床につける。そして左右に体を倒す。

 そのまま体を右に九十度回して右足を前に足を前後百八十度開いた状態にする。足を前後に開いて上体を伏せる様に前足にピッタリと付ける。ここまでは体が柔らかい人のストレッチとして見たことがないまでも人間の動きとして想像ができる。

 その後、前後に足を開いたまま、両腕を上に上げ体を反らして背中を後ろの足につけるようにする。上に上げた両手で後ろの足先をつかむ。

 それをが終わると体を百八十度回し左足前で足を前後に百八十度に開いた状態にして同じことをする。

 常識的な人間の柔軟性を超えている。

 女性二人だけでも常識を超えているが男性の優一も同じレベルの柔軟性であるのに驚く。稽古場にいた女子中学生や高校生も目を丸くして見ているが、三人は周りの目も気にせずヴァリエーションがどうとか「瑞希は『ジゼル』と『シルヴィア』で……グランなら『海賊かいぞく』か『ドンキ』コンテンポラリーは……」などと話している。


 時計に目を向け、美織みおりが立ち上がる。

「じゃあ、始めましょうか。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 スタジオの全員がお辞儀をする北村と秋山もレッスンに入る。

 レッスン生全員の前に立つ美織みおり。そのレッスン生たちの一番前に瑞希みずきが立つ。稽古場の一番後ろに優一が付く。

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