第6話 その人は主席ダンサー
奈々は控え室にいる北村のところへ走って行く。秋山が三人のところに行くと、黒のキャップの女性が丁寧に頭を下げる。
「私たちバレエの練習ができるところを探しているんですけど。こちらの教室でレッスンを受けさせて頂けませんか?」
「それは大丈夫ですよ」
黒いキャップの女性は隣にいる男性の方を向いて安心したように微笑む。一人向こうの方で白いワンピースの女性が発表会の写真に見入っている。
「
黒のキャップの女性が白のワンピースの女性を手招きする。
「発表会の写真。これ『眠れる森の美女』よ」
「いいから、こっちに来てください」
なんだか白のワンピースの女性はマイペースのようだ。
「あのぉ……
秋山が恐る恐る聞く。
三人が微笑みながら頷く。黒いキャップの女性が帽子を取りながら、
「
帽子を取ると本当に河合瑞希だ。先月、有名なバレエ雑誌の表紙を飾っていたバレリーナ河合瑞希その人だった。彼女はこれからが期待される注目のバレリーナだ。
その後ろにいるワンピースの女性もテレビやバレエの雑誌で見たことのあるバレリーナ京野美織。そして、その彼女のパートナーとしていつも一緒に踊っているプリンシパルダンサーの久宝優一だ。二人はバレエ団でプリンシパルとして活躍しながら、既に世界的に活躍しているダンサーだ。
今まで雑誌やテレビの画面越しにしか見たことがなかった三人を目の前に言葉を失う秋山だった。
「あのぉ……それ書きますよ」
瑞希が秋山の手に持っている入会用紙を指差して言う。
「え? あ、いえ、これはここのバレエ教室に入る人が書くもので……」
「だから、書きますよ」
微笑みながら瑞希が言う。
「え? 河合さんたちは今度の公演のゲストの方ではないんですか?」
「ん?」
瑞希が首を傾げながら美織と優一の方を振り返る。優一が優しい笑顔で横から微笑む。
「すみません。何か行き違いになっているのかもしれませんが、僕たちはゲストとして、こちらに来たわけではないですよ」
秋山も少し状況が呑み込めない様子であったが、われに返るように、
「え? あ、そうですよね。いくら何でもバレエ団トップのプリンシパルダンサーが三人もゲストに来てくれるわけないですよね」
「ゲストじゃないよ。私たち生徒として、ここのバレエ教室に入るんだよ」
瑞希が微笑みながら言う。
「ええ!」
秋山は思わず大きな声を出してしまったが、驚きよりも瑞希が言っている意味がわからない。
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