第5話 三人の訪問

 五月の初め、ゴールデンウィークの街は観光客で溢れていた。この時期になると急に暑くなったように感じる。


 花村バレエ団は普段は昼間大人クラス。夕方の時間帯は日によって多少の違いはあるが、小さな子供から小学生、中学生、高校生。そして遅い時間は高校生以上、大人のバレエクラスとなっていた。


◇◇◇◇◇◇


 ゴールデンウィークは出かける人も多い。午前中はキッズクラスとして小学生の低学年の生徒までのレッスンがあり。昼からは、特にクラスを分けず誰でも受けれるレッスンをするようにしていた。

 その昼からのレッスンに園香そのか奈々ななも参加する。いつものように稽古場にやってくると、小学生高学年から中学生、高校生、大人までかなりの人数の生徒がレッスンを受けに来ていた。

 稽古場には見学スペースもあり、小学生の母親たちもたくさんいる。


「みんな行くとこないの?」

奈々が呟くように言う。

「あなたもでしょ」

更衣室に向かいながら園香が微笑む。

 準備をして稽古場でストレッチを始める園香。中学生女子や高校生女子がそれぞれ数人集まって楽しそうに話しながらストレッチをしている。

 男子が数人集まって鏡の前でピルエットの練習をしている。

「なんで男子ってストレッチもしないでピルエット回ってんの?」

奈々が呆れたように言う。

「どこもあんな感じなのかなあ」

園香が微笑みながら見ている。

――――――

※ピルエット

片足を軸にして、もう一方の足で床を蹴り、床を蹴った方の足は横に開いた状態で膝を曲げつま先を軸足の膝あたりに付けて回転する。

――――――


 ふと受付の方に目を向けると見慣れない三人の男女が辺りを見回している。

 一人は黒のキャップを被りサングラスをかけた二十歳ぐらいの女性。Tシャツにジーンズ、肩にバッグをかけてボーイッシュな雰囲気で垢ぬけた感じがする。

 その後ろに先輩らしい女性が白いストローハットに白のワンピース。白い日傘を手に持って立っている。見るからにお嬢様風の女性だ。

 隣にはその白い女性の彼氏なのだろうか、カジュアルな服装の爽やかな男性が彼女のものらしい白いバッグと自分のバッグを持って立っている。


 園香が三人の方に行き話しかける。

「見学の方ですか?」

「バレエのレッスンを受けたいんですけど、今日からレッスンに参加できますか? 入会手続きが必要ならしますけど……」

 黒いキャップの女性がサングラスを外しながら言う。キリっとした綺麗な女性はどこかで見たことがあるような気もする。

「体験レッスンもできますけど、今ちょうど主催者の花村真理子はなむらまりこ先生は東京に行っていていないんです。ちょっと待ってくださいね」

園香そのかが教師の控え室に行く。


 今日は秋山あきやま北村きたむらという二人のバレエ教師がスタジオに来ていた。園花が二人のところに行くと、秋山が入会用紙とパンフレット、レッスンのスケジュール表などを持って稽古場に上がってきた。


「へえ、大人の人が三人も入会希望なんだ。バレエ経験者かな」

「ええ、なんか見たことあるような気もするんですけど」

 園香と秋山が稽古場に上がって来ると稽古場がざわついていた。中学生や高校生が三人のことを気にして何かしきりに話している。大人たちも三人を気にしながら話している。

 三人は稽古場の隅で待っていた。黒いキャップの女性は何かタウン情報誌のような雑誌を見ながら一緒にいる男性に話しかけていた。

 白い女性は稽古場の入り口に飾ってあった発表会の写真を見ている。男性が秋山に気付いて会釈する。

 奈々が園香と秋山のところに駆け寄ってきて小声で言う。

「秋山先生、京野美織きょうのみおりさんと久宝優一くぼうゆういちさんと河合瑞希かわいみずきさんみたいです」

 秋山も言葉を失って立ち止った。

「奈々ちゃん、北村先生を呼んできて」

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