第2話 記念公演に向けて

 花村真理子はなむらまりこバレエ研究所は四国のバレエ研究所として歴史ある大きなバレエ教室だ。毎年、十二月に公演をしている。


 今年の演目は「くるみ割り人形」(全幕)


 この作品はクリスマスの時期に世界中で上演される。バレエ作品の中で最も有名な作品の一つと言える。

 華やかな場面から物語が始まり、ファンタジー要素と美しい情景描写の中で繰り広げられるバラエティに富んだ踊りの数々。

 この作品を全幕上演するバレエ団、バレエ教室は多い。


◇◇◇◇◇◇


 バレエを取り巻く環境に目を向けると、バレエは子どもの習い事という感じが強いかもしれない……バレエ関係者以外の人からすると、親戚の子や学校の友達がやっているということでもなければ、なかなか舞台を見に行く機会はないものだ。

 そうでもなければ、まったく知らないバレエ団の公演やバレエ教室の発表会があるからといって「見に行ってみよう」とはならないものである。

 そういうことを考えると、大々的に公演をすると言っても、観客は出演者の身内と県内のバレエ関係者となることが多い。

 しかし、今回の花村バレエの公演は関係者、出演者たちばかりか、主催者である花村真理子さえ想像してない舞台へと展開していくことになる。


◇◇◇◇◇◇


 花村バレエ研究所ではバレエ教室開設三十周年として、東京の名門バレエ団からゲストダンサーを呼ぼうと考えていた。

 真理子は、つい最近バレエ協会の関係で都内の有名バレエ団である青山青葉あおやまあおばバレエ団の主催者である青山青葉あおやまあおばと会うことがあった。

 以前から面識があり話をするなかで、

「何かのときは、いつでも声を掛けてね」

と気さくに話してくれた。

 そんなこともあって難しい依頼とは思いながら真理子は青山青葉バレエ団にゲストの依頼をしようと考えた。

「いつでも声を掛けて」と言っても、十二月はバレエ団も舞台で忙しいだろう。ここのバレエ団は十二月に「くるみ割り人形」を上演するのが恒例になっている。

 そんな時期に団員にゲスト出演してもらおうというのだ。さすがに無茶な要望かと思った。団員の調整をつけるのは難しいかもしれない。

 しかし、花村バレエにとっても三十周年という大きな節目の公演だった。

『何かのとき声を掛けて』と言ってくれるのであれば、今がその時ではないか? 日本最高峰のバレエ団の力を借りたい。

 なんとか出演してもらいたいという思いから、一度声を掛けてみようと連絡を取った。

 すると意外なほどに気持ちよく承諾してくれた。

 それほど団員が多いのかと改めて思った。このバレエ団は全国でも有数のビッグカンパニーで都内の主要な劇場で全幕公演をしているとき、同じ日程で別のホールでもバレエ団の全幕公演をしていたりする。

 複数の全幕公演を同時に上演できるバレエ団……ありえないほど大きいバレエ団ということだ。

 この年も例年通り、この時期、数か所で掛け持ち公演をすることになっている。そんな中で、さらにゲストダンサーの依頼に応えてくれるという。


◇◇◇◇◇◇


 真理子は東京に出向く用があったこともあり挨拶も兼ねて、娘でバレエ教師をしている花村あやめと青山青葉バレエ団を訪れることにした。

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