第57話

 残りの反応は二階の一部屋に集中しているので、部屋を出て廊下を歩き階段へ向かう。

 不意の遭遇に備えて階段を慎重に登ると、二階の廊下が視界に入った。反応は一番奥の部屋から出ている。


 その部屋に向かう途中に家主と見られる男性が、うつ伏せで亡くなっているのを発見した。遺体の傷や姿勢から武器を求めて此処まで移動したが、背後から撃たれたのだと推測出来る。

 この無くなったヒューマノイド系の男性には申し訳ないが、他の住居と違って此処の武器は奪われなかったのは、彼が途中で事切れたからだろう。


 俺はその遺体を踏まない様に避けつつ目的の部屋に入る。大きめのベッドが有る所を見るにそこは寝室の様だった。

 此処の家主は護身用の武器をクローゼット内の金庫に隠しており、爆発物の起爆装置に加工する為、其処に隠されたブラスターを一丁とそれの弾を頂いた。 


「ジョン、残された機器からも少しパーツを頂きましょう。此処の手持ちでは少々心許ないです。」

「分かったよ、ガス。使えそうな家電をピックアップしてくれ。」


 燃料缶を設置した部屋へ戻る道すがら、ガスからの提案を受けて彼のピックアップした家中の機械から必要に成りそうなパーツを拝借する。

 敵から奪ったポーチの中に小型のマルチツールが有ったので、回収作業がスムーズに行った。

 

 多少の寄り道をしつつも目的の部屋へ戻った後は、無事に残っているテーブルを作業台にして入手した物を加工して行く。

 最初に手を付けるのは一番簡単なブラスターピストルだ。これは家庭ホームディフェンス用に販売されいる正規品で、チンピラ達の持つ粗悪な密造品と違いパーツ毎への分解が簡単に出来る様な仕組み成っている。


 密造品は意味不明な溶接や接着剤を使用してパーツを固定していたり、強度計算がされて無かったり、人体に悪影響を及ぼす機関からの保護が無かったりと分解するには危険すぎる。

 それに比べて専門的な工具が無くても分解できる企業の正規品は、メンテナンスやアップグレードが簡単にでき、使用に不必要な注意を払う必要が無い。


 俺はブラスターを分解した後、プラズマチェンバーや撃発機構等と言った起爆装置に必要なパーツと、収束レンズや加速バレル、コリメーター回路等の不要な部分に分ける。

 使用予定のパーツに破損等が無いか検査した後、ピストル用のエネルギーカートリッジと家電から入手したエネルギーケーブルを組み合わせて時限式の起爆装置を作る事が出来た。


 合成燃料の缶に起爆装置を組み合わせて簡易爆発物を作成し、壁を吹き飛ばす用意が終わる。

 他にも確実に壁へ穴が出来る様、背負って居た槍を使って壁に幾つか穴を開け、そこへ残ったエネルギーカートリッジとエネルギーケーブルを組み合わせた物を突っ込む。


 エネルギーケーブルは起爆装置に繋いでおき、装置の作動と共に壁内のエネルギーカートリッジを先に起爆させる仕組みが出来た。

 有り合わせの品で作った急造の品だが、ガスの計算に因ると何とかスマートボムを温存して壁を破壊出来るそうだ。


「ガス、今日は本当に工作作業が多く無いか?」

「そうですね。【機械修理】のスキルが仕事をし過ぎですね。」


 俺はガスに話し掛けながら最終点検を済ませて起爆スイッチを押した。

 ガスが被害範囲を赤く表示するので、それから離れる様に急ぎ足でその場を離れた。


 俺が扉を締め切るよりも前に爆破音が複数鳴り響き始めたので、駆け足で廊下を移動して距離を取る。

 俺が何とか別の部屋に辿り着いた瞬間、それまでの爆発音が子供の遊び道具に感じられる程の音と振動がスーツ越しに感じられた。


「ガス、ホントにこの仕事はアーマー無しでやりたく無いな。報酬の一部前払いをして貰って本当に良かったよ。」

「その通りですね。それに予想以上の大事に成ってますので、更に追加で請求するべきだと考えます。」


 無言での作業が続いていたので、ガスに話し掛けながら爆破した部屋へ向かうと、目的の部屋の扉や壁が吹き飛び鉄骨の様な建築用メタルが剥き出しに成っていた。

 それを見ただけで即席爆破装置IEDの威力が十分だと分かる。


「さて、穴は出来てるかな?」


 とんでもないリノベーション工事を受けた部屋の中は、目的の通り隣の家屋と地続きに成っており、敵の本丸に直ぐ傍までルートを開く事が出来た。

 俺は、画像処理によってクリアに表示されている壁の先へ足を向かわせる。


 敵が亀の様に閉じこもって動きが無かった事で、俺は一瞬だけ映し出された人型の幻影に気付くのが遅れる。

 真正面から襲い掛かる光弾に気付いたのは、胴体へ三発程撃ち込まれてその衝撃を感じた後だった。


 口から声に成らない空気が漏れながらも無意識で引き抜かれたピストルが、敵が居ると予測される場所に複数の光弾を打ち込む。

 ピストルを握る右手に遅れて左手もサブマシンガンを握ろうとしたが、目の前で光弾が掻き消えるのを見て頭部を守る為により高く掲げる。


 センサーモジュールは保護パーツを展開し、内部のセンサーパーツを露出させ見えざる敵を捕らえる為に全力稼働を始めた。

 敵の姿が縁取られて表示される事で相手の位置を知る事が出来た俺は、兎に角アーマーの無さそうな所へブラスターを撃ち続ける。


 相手への攻撃がどれ程の効果を発揮しているかも分からないまま、ガムシャラに撃っていたがそれも敵が背中から倒れた事で止める事が出来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る