第56話
案の定、住居内に敵の姿は無くもぬけの殻と成っていたので、ガスが見つけ出した構造的に脆弱な壁へスマートボムを仕掛けに戻った。
ポーチから取り出したボムを再度、スキャンしてその能力を確認する。
俺が敵から奪ったスマートボムは、丸い缶バッチサイズのディスクタイプで、コンパクトながらも物体への吸着機能や衝撃波に指向性を持たせる機能が有る。
これ等の機能を持つお陰で威力や加害範囲が低いが、構造物の破壊や感圧式の地雷等に使える優れものだった。
俺はマークされた箇所にスマートボムを取り付け、腕に着けた制御端末とボムが同期した事を確認し、爆破に巻き込まれ無い様にその場を離れる。
廊下へ出て隣の部屋に向かいながらスマートボムの設定を行い、部屋の壁を背にガントレットを捜査して起爆した。
壁を伝わる振動が終わるのを待ってから移動し、頃爆弾を仕掛けた部屋に戻ると、部屋の中には大量の粉塵が舞っており視界を遮られるが、直ぐにコンピューターで補正されたクリーンな物に切り替わる。
破壊目的の壁には人が出入りするには十分な穴が空いており、しっかりと爆破出来ている。
「ガス、敵のクローキングデバイスの解析は進んでいるか?」
「いいえ、デバイスが発する特殊フィールドの反応を捉えられていません。ですが、端緒を掴めれば捗りそうです。クローキングデバイスの進捗は悪いですが、敵が使用するジャマーの発生させている妨害フィールドについては解析が進みました。」
俺は敵との遭遇する可能性が増した事を感じてしまい、ガスにそれと無く良い知らせが無いか確認する。
ガスは俺の質問に否定の言葉を返しつつも、唯一掴んでいるジャミング装置の位置をメットに表示したが、そこは敵の集結が予想された位置と全く同じだった。
「おや?ジョン、お客様が入らしたようです。」
「良い知らせがやって来たかな?」
ガスの報告をメットの表示を使って確認していると、建物に近付く存在が感知されて注意を促す表示がされた。
ガスの言い様から来たのが敵では無いと判断したので、そのまま部屋で件のお客様を待つ。
「コイツが俺の元に来たって事は、レベッカ達が店を出た様だな。後の事は神のみぞ知るって所だな。」
「ようやく、折り返し地点に到達しましたね。メッセージ内容に変更が無いので、彼女達は予定通りに行動出来ていそうです。」
俺達の元に来たのは、一体のメッセンジャーボットだった。勿論、レベッカの店で俺が急造した奴だ。
このメッセンジャーボットは小型の偵察ドローンタイプで、飛行装置とセンサーアイが故障していたので、メッセンジャーボットに最低限必要な飛行装置だけを修理した。
レベッカは更にセンサーアイのを修理し、本来の偵察ドローンに戻した様だ。早速、対象追跡機能等で俺の痕跡を辿って来たのだろう。
稼働時間や機動性は他のモデルに負けるものの、翼の格納機能や頭の良さと言った優れている点も多い。
俺がドローンに手を差し出すと、スッと乗ったかと思えば格納状態に成ったので、腰のポーチに入れた。
ポーチには給電機能がありベルトに搭載された薄型バッテリーパックか、マルチ給電機能付きのスーツから、ポーチ内の物に給電する事が可能と成っている。
俺はドローンとガスを同期して給電出来ている事やカメラが映るかを確かめたり、ブラスターの残弾やアーマーの損耗状態を確認した後、空けた穴を通って隣の建物へ移動した。
外側から壁を破壊されて大穴が空いた侵入先の部屋内にも生きた人間の姿は無く、静寂が支配している。
この建物を含めても奴等が集結していると思われる住居までは、まだ少し距離が有るのだが、もう壁を破壊する程の爆発物が無い為、通りへ出る必要が有る。
しかし、このまま攻撃を受け続けたり、相手がブラスターの威力を上げた場合、スーツの耐衝撃性や耐熱性が致命的な事に成りそうだ。
色々と問題点が見えて来るが取り敢えずこの部屋は元来た部屋よりも埃が多く舞っているので、慎重に扉を開けて廊下へ退避する。
埃塗れでクローキングデバイスに有利な状況だったが、敵は此方を待ち構える姿勢なので、適度に刺激をして眼を此方に向ける必要が有った。
俺は爆発物に成りそうな物が無いか、建物内を詳細スキャンに掛けると幾つか反応が有る。
恐らく住人が隠し持っていた武器の反応や、燃料関係の反応だと思われるので、それぞれの元へ向かう。
「先ずは一階のキッチンからかな。ここで燃料缶でも入手出来れば幸いなんだが。」
「付近のインフラには燃料を供給する様な物は御座いませんでした。自宅内に備蓄している可能性は少なく無いと思います。持ち運べるかは別ですが。」
俺が漏らした願望に対してガスがボソッと答えるのを聞きながら、キッチンに向かう。
乱暴に開けられた扉の先は酷く荒らされており、開け放たれたままの冷蔵庫や割れた食器が散乱する床、机の上は食べこぼしと食べさしで汚れている。
幸いな事に目当ての反応が出ている地点には、チンピラの魔の手は届いて無かったので、アーマーが必要以上に汚れる事は無さそうだった。
メットの表示に従って調理台に組み込まれている戸棚を開けると、調理台のコンロが有る真下の床下収納を開ける様に表示された。
その収納部分にコンロから管が伸びており、何等かの可燃物が其処に納められていると思われる。
開閉部は食器類で塞がれおり、邪魔なので調理台から退かして移動させた後、目的のハッチを開ける。
中には元の世界でも見られた灰色のガス缶の様な容器が爪の様な器具で、ガッチリと固定されていた。
コンロからの管は、容器の上部に設けられた接続口に伸びているが、栓の開閉で簡単に取り外す事が出来そうだ。
容器には赤い色で危険物や爆発物を示す様なマーキングが施されており、目的の品で有る事が見て取れる。
俺は容器の固定を外す為に妙に硬いレバーを操作して爪を開き、栓を閉めて管を外し、床から引き抜いた。
ウロウロと持ち運ぶには重いそれを使用予定の部屋へ運び一息ついた後、次の反応が出ている部屋へ向かって装備の入手と補充を続ける。
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