第55話

 入った住居の荒れ様は似通ったものと成っており、俺はそれらを気にする事は無くなっている。

 俺は両手で持っていたサブマシンガンをチェストプレートにマウントし、ホルスターからピストルを引き抜く。


 サブマシンガンはアサルトライフルよりもコンパクトで反動も少ない上、ピストルよりも連射力が高いので、室内で戦う現状的にはピストルよりも向いていると言える。だが、スキルの補助を考慮するとこの話は変わって来てしまう。

 【ガンスリンガー】と【帝国軍式戦闘術】は同じ様にピストルをスキルの対象とするが、対象と成る武器を扱う際の補正力は【ガンスリンガー】の方が上だと、今までの使い心地から体感している。


 そしてサブマシンガンにはその【ガンスリンガー】が補助を与えないので、【帝国軍式戦闘術】の補助しか受ける事が出来ない。

 それでも銃の構え方や狙いの付け方、反動の制御方法と言った類の初歩的な補助を受ける事は出来るが、奴等は胴体や手足に対ブラスター用のアーマーを装備しているので、頭を射抜く必要が有るのにそれだは心許ないのだ。

 

 俺は駆け足で階段の元まで到達したので、一呼吸入れて覚悟を決めた後、上階からの射撃や足元にブービートラップ等が無いかセンサーモジュールで警戒し、不用意なダメージを受けない様にする。

 敵はそこまでの用意はして無かった様で、罠や伏兵は探知される事は無かった。


 メットの右下に表示されるマップでは、この住居内に居る敵はたった一人な上に二階の一室で此方を待ち構えて居る。

 俺は万全の状態で挑む為にレーザー発振器のスイッチを入れ、低出力のレーザーを放ちながら階段を登って行く。


「ガス、突入のタイミングで奴の無線を使って行動を阻害出来るか?」

「現在のシステム掌握状況でもその手の支援は可能です。使用する際はご指示頂けますか?」 


 ガスが奴等のシステムをどれだけ掌握しているのか把握出来て無かったので、思いついた事が出来るのか聞いてみると、相変わらず頼もしい返答が聞けた。

 俺がそれを頼もしく思いながら階段を登り切って部屋の側に行くと、メットにスタンバイ完了の表記が小さく表示された。


 部屋の位置が階段に近く扉が開いていれば既に攻撃を受けて居た可能性が高い。

 ガスは扉のハッキングも済ませており、俺が指示を一つ出すだけで中の奴に死に至るサプライズを送る事が出来る状態だ。


「ガス、度肝を抜いてやれ。」

「了解しました。」


 俺は視界を遮る扉とその先で片膝立ちでブラスターを構える男を見据えながら、ガスへ声を掛ける。

 彼はそれに従い行動を起こしたらしく、扉は独りでに開き始めた上に男は片手で耳を押さえて取り乱している。


 俺はその状況でもサブマシンガンを手放さなかった姿を見て、相手の練度に上方修正を加えながら、うずくまる男の頭に向けて射撃をした。

 俺が放った一発の光弾は、ブラスターピストルが貫徹向けに設定されていた所為で、通常時よりも高い貫通力を発揮してしまう。


 青い光弾は男の手と頭を貫通し完全に破壊した後、奥の壁に当たってその役目を終えた。

 最初に倒した奴と同じく特殊繊維を使用した黒い衣服を身に纏ったその肉体は、命令を出す物が無くなった為、その機能を永遠に停止している。

 

 俺はそいつの傍まで近寄って例の如く持ち物を漁り、サブマシンガンの弾や使えそうな物が無いか確認する。

 コイツは最初の奴と違い単分子ナイフやスマートボム等の使えそうな物を装備していたので、剥ぎ取って自分の物にした。


「ガス、此奴の端末は要るのか?」

「そうですね、有るに越した事は無いですね。通信端末を確保して貰えますか?」


 俺は似た様な装備の男から通信関係の装備と腰のポーチ付きベルトを剥ぎ取り、そこにバッグに入らない装備品を詰め込む。

 有益そうな物を粗方盗り終えたので、用が無くなった部屋を出て一階へ降りる。


 二階に登る前と変わらぬ光景を抜けて建物の外に出ると、今度は光弾が降って来なかった。どうやら、無意味だと気付いた様だ。

 ガスのハッキングとセンサーモジュールのお陰で、奴等が場所を移動して戦力を集中している事が見れて居たが、途中からそれらのシルエットがメットに映らなく成った。


「ガス、バレたのか?」

「はい。秘匿コードに変更した様です。クローキングデバイスの周波数も変更されました。再度、解析を行います。入手出来た情報を表示します。」


 俺はガスに表示され無くなった件を軽く聞いてみると、彼は少々の不服を見せながら答えた。

 その後メットのマップに敵の集結予想地点とジャミング装置の在りかが表示される。


 どうやら、奴等はレベッカの店の正面に立つ建物に戦力を溜めて、通りに睨みを利かせる気の様だ。

 それに気付いて直ぐ最初に目指していた建物へ駈け込み、敵の射線に姿を晒さない様にした。


「ボーナスタイムは終わりか、攻め方を変えないとな。爆発物を先に入手出来たのは、ラッキーだったな。」

「そうですね。必要そうな情報をスキャンしておきます。」


 ガスは俺の呟きを拾って住居の構造についてスキャンを始めた。

 彼は俺が入口以外の場所から出たい時に、取りたがる手段に思い当たった様だ。


「ガス、中の確認を終えたら奴等の本丸に向けて移動しようか?」

「了解しました。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る