第54話

 メットに表示される敵の動きと聴覚サポートの一環である合成着弾音で、敵に当たった事を認識した俺は、他の敵からの猛反撃を無視して窓から飛び降りた。

 スキルによる受け身と身体を衝撃から保護するジェルのお陰で無傷だった俺は、そのまま敵の光弾を浴びながら路地を横断し、狙撃した相手が倒れて居るであろう建物に入る。


 頭部のセンサーモジュールを腕で庇いながら起動して室内の索敵を済ませたら、無人である筈の上階へ移動した。

 階段には打ち捨てられたヒューマノイド系の死体が晒されており、壁の弾痕や様々な破片と合わせて傭兵達の凶行を物語る証拠と成っている。


 その服装は市場で見た買い物客達と似通って物で、彼が一般人で有る事が見て取れた。

 彼の背中には光弾を被弾した際に出来る体組織が熱で円状に破壊された痕が幾つも存在している。


 俺はその遺体を踏まない様に階段を登り切ると、建物内に存在する他の惨状を無視して先程、攻撃をした部屋を目指して短い廊下を進む。

 二階も部屋の扉やその中に多くの狼藉を犯した跡が眼に付くが、事前のスキャンでは生体反応は出なかったので、それらの側に駆け寄る事もせずに扉を通り過ぎ目的の部屋に付いた。


 その部屋の扉は他と同じ様に開け放たれており、中を伺う事が出来たので慎重に中を覗くと、そこには黒い衣服を身に纏いったヒューマノイド系の遺体と傷一つ無いブラスターサブマシンガンが落ちている。

 俺は慎重に部屋の中に入り遺体の側に近寄った。


「ガス、遮蔽装置と端末を表示してくれ。情報を抜けそうな物だけ入手したら移動しよう。」

「了解しました。スキャンして強調表示します。」


 不審者は値段の張りそうな分割式の防弾プレートが付いたベストやガントレットと言った防具に加え、腰回りに複数のユーティリティポーチを備えたベルトの他に、背中からは稼働アームが伸びておりその先端には丸い光学系センサーモジュールが付いていた。

 ガスは腰回りに複数有るポーチと左手のガントレット上にマウントされたデバイス、背骨に沿う様に取り付けられたガジェット、そしてセンサーモジュールを透過強調して表示している。

 

 俺は真っ先にサブマシンガンとそのマガジンを確保すると、眼に付きやすいセンサーモジュールを稼働アームから取り外す。

 ポーチの中には四角い棒状の携帯端末が入っていたので、背中のバックにセンサーモジュールと一緒に詰め込んだ。


 ガスが無言で解析を始めたので、俺も特に何か言う事無く他の機器を取り外して行く。取り外す際に手が止まる事が無かったのは、どのスキルのお陰だろうか。


「ガス、バックが一杯だ。こっちのは、アーマーに着けるしか無さそうだぞ。」

「そうですね。規格、セキュリティ共に問題無さそうです。外した時と同じ様に着けて下さい。」


 ガスが言う通りにアーマーへ機器を取り付けると、メットにはグリーンの文字でオンラインの表記が出て来た。

 次いで警告表示が出て来たので内容を読んでみると、エネルギー供給等の問題から元の持ち主達の様に不可視状態には成れないそうだ。


 俺は残念な気持ちを押し殺しながら、何だったら出来るのか詳細を表示してみると、センサーやスキャンに対するパッシブステルス機能は常時展開出来る様だ。

 専用の高出力バッテリーパックと不可視化粒子の定着用繊維を使用した衣服が無ければ透明人間には成れないらしい。


 ガントレットに付いていたデバイスは、センサーモジュールやクローキングデバイスの操作用端末らしく、メットによる操作が可能な俺には解析する以外に必要性は無さそうだ。

 盗る物を盗り終えたのでガスの解析を待たずにその場を離れ、部屋を出て来た道を戻る。

 

「ガス、解析はどれ位掛りそうなんだ?」

「今、終わりました。奴等の暗号化コードを入手しました。侵入に対する警戒がお粗末ですね。暫くは気付かれ無いでしょう。」


 俺の軽い質問に対してガスは、食い気味で何時もより饒舌に答える。


「なら指揮官とジャミング装置の位置が知りたい。それと奴等の透明化を無効にしたい。」

「メットへ表示します。加えて作戦目的等も調べます。」


 周辺の地図が視界の端に表示され、それに五つの赤い点が付いている。これが質問の答えらしい。

 俺は入手したばかりのサブマシンガンを構えながら、建物の入り口へ辿り着いた。


 そのまま隠れて居ても囮の任を果たせないので、奴等に真っ向から向かって行く事にした。恐らく感じ難いながらも不可視の奴等に狙われるストレスが、俺を過激にしたのだろう。

 俺が堂々と通りへ姿を表すと、レベッカの店から出て来た時より少し減った気がする光弾の雨が降り出した。


 俺は先程と対応を変えて、光弾の発射元に手にしたサブマシンガンを使用して反撃を行う。こうする事で奴等は何か有っても俺を無視しづらい筈だ。

 俺の反撃は予想外だった様で、直撃はしてないものの攻撃の手が弱まっている。


 俺は反撃が有効だと確認出来た時点で、一番近い敵の元に向かった。当然、敵からの攻撃は続いていたが適度にサブマシンガンから光弾を撃ち出してやり過ごす。

 例の如く扉は開け放たれていたので俺はノックする事も無く土足でお邪魔した。

 

 

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