第53話
「長々と話してしまったな。俺もそろそろ覚悟を決めてやる事をやるか。」
「ジョン、貴方は一人に成りたがる癖が御座いませんか?今回の作戦も貴方の役とエヴァの役が反対でも成り立ったと思いますが?」
俺が後回しにしていた嫌な仕事に掛ろうとすると、ガスからお小言を頂いた。
ガスが発する言葉の節々から、しょうがないと呆れた雰囲気が漂うが、此方を非難する意図は感じられなかった。
「昔からの癖だから諦めてくれ。それにエヴァの修理は完璧じゃ無かった。戦闘効率が著しく落ちた彼女が、破壊されずに戦闘が終わる可能性はかなり低いだろ。」
「確かにその通りですが、貴方が死んでは元も子も有りませんよ。」
俺の苦しい言い訳に対してガスが、もっともな意見をわざとらしくぶつけて来る。
まさかガスがこんなに保護者の様な口調で話すとは思って無かったが、案外悪い気がしない。
「普段とは違った甲斐甲斐しさだな。悪い気はしないが折角の覚悟が台無しに成りそうだ。」
「それは失礼致しました。ああ、メッセンジャーボットへのプログラミングが終了しております。後は貴方からの指示を待つだけです。エヴァの事もミックへ伝える内容でメッセージを作成しています。」
俺はガスの報告を聞きながらシェルターへ向かい、インターフェースのスイッチを押し、中に居る筈のレベッカを呼び出した。
「レベッカ、これから俺が表で時間を稼ぐ。爆発物が出来次第、このエヴァと一緒に此処を脱出するんだ。そのタイミングでメッセンジャーボット達も放ってくれ。」
「分かった。爆発物はもう直ぐ出来るから、そんなに待たせないと思うよ。」
インターフェースのモニターには、机に向かって作業するレベッカの背中が映り、彼女からは良い返事が聞く事が出来た。
俺の背後の壁にエヴァがもたれ掛かって居るので、インターフェースのカメラに映して後を託した事を伝えた。
「エヴァ、後は任せる。」
「ボス、行ってらっしゃい。」
背後に居たエヴァにも一声掛けると、まるで此方がお使いにでも行く様な気がする軽い口調で送り出してくれた。
これから光弾の雨に突撃すると言うのに、以外にも俺の足取りは軽かった。
閉じられたシャッターの目前まで辿り着き、【ガンスリンガー】が命じるまま少し腰を落として撃ち合いの用意し、開け切るのを待つ。
ガスが遠隔操作でシャッターを上げ始め、外からの光が薄っすらと足元から照らし始め、砂埃も同じく隙間から入り込み足元に渦巻ながら当たる。
「ガス、敵の位置が特定出来るまでは、光弾の発射が確認出来た地点をマークしてくれ。其処を中心に探りを入れて見る。」
「了解しました。ご武運を。」
ガスが言い切らない内に俺の脚を狙った光弾が、脛のアーマープレートへ当たった。奴等はこの装甲に手持ちのブラスターが、大して効いていない事を承知の上で威嚇しているのだろうか?
俺は疑問に思うものの態々当たってやる必要は無いと、開け切らないシャッターを潜って外へ走り出た。
出た途端に光弾の雨が俺に降りかかり、アーマーの至る所でそれが弾ける衝撃を感じる。しかし、俺はその一切を無視して【帝国軍式戦闘術】が示すフォームで左斜め前の民家へ走り続けた。
民家の入り口は開閉のコンソールが壊されており、その所為か扉が開け放たれている。俺は前傾姿勢で走りながら、身体を放り込む様に中へ駈け込んだ。
「ガス、ジェルの消耗状況を邪魔に成らない所へ表示してくれ。」
「了解しました。」
敵の光弾は俺が屋内に入った途端に止んだので、ガスは建物内のスキャンを行い、内部に敵が居ないか確認していた。
俺はそれの結果を待たずしてブラスターピストルを手に持ちながら、室内の確認をして行く。
「ジョン、彼等が使用する遮蔽装置の特性を解析出来そうです。ですが、その為にはもっと近くでセンサーモジュールを解放状態にする必要が有ります。」
「割と難しい注文じゃないか?まあ、取り敢えず敵が居る建物に入る事からだ。」
俺は胴体にマウントしていたレーザー発振器に、被弾が無い事を確認して二階へ移動する。
センサーモジュールを信用して無い訳では無いが、一応レーザー発振器のスイッチを入れて身体の前に不可視のレーザーを投射する。
平たい弁当箱様な発振器の前面には複数の段に分かれたスリットが有り、其処には透明な樹脂でカバーされた小型のエミッターが並んでいた。
エミッターからは扇状に不可視のレーザー光線が放たれ、その道筋に不審な所が無いかをガスが監視する。
外からの射線が通る様な窓に気を付けながら、上階の少ない部屋を一つ一つ確認するが不審者は潜んでおらず、ブービートラップ等も仕掛けられていなかった。
俺は背負ったライフルを取り出し、慎重に通りへ面した窓に向かう。
心臓が鼓動を速めるのを感じながら窓を覗くが、メットに光弾が当たる事は無かった。どうやら、敵は俺を見失ったか此方を無視している様だ。
「ボス、10時の方向を確認して下さい。恐らく奴等の一人を補足しました。」
「良くやった。」
ガスが言う方向を確認すると、住居二階の窓に黄色く縁取りされた人型の空間が眼に入った。
手には短機関銃らしき物を持っており、その銃口はレベッカの店へ向いている。
「遮蔽装置は腰かな?頭を狙っても壊れなきゃ良いんだが。」
「恐らく腰か胴体ですね。頭には何も装備して無さそうです。」
俺はガスに話しかけながら窓から後ずさって少し離れた。
長いライフルの銃身が窓から出ない様に構えると、目標の頭部へと照準を合わせる。
銃の重さや呼吸で揺れる照準がピタリと合った瞬間、ブラスターの引金を引くと青い光弾が通りを横切り目標に着弾した。
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