第8話「最初の任務を伝える」

 設定された複数のマーカーの内、ドクトゥスの場所を指すものを頼りに足を進めると、広い倉庫の反対端に辿り着いた。

 マーカーは壁際に設置された棚の中ほどを指しているので、棚の中を眺めつつ目的地へ進む。


 棚は上下二段に分かれており、上段には大量の小型コンテナボックスが可動式のラックに納めれている。

 下の段にはロボが一体ずつ収納された2メートル程のハンガーが、端までズラッと並べられている。


 各ロボはハンガー内で様々な姿勢で固定されており、小型のロボ以外は一目でその全容を見る事は出来なかった。

 ハンガーには格納されたロボの情報が表示されたモニターと幾つかのスイッチ、ロボへ伸びる太めのケーブルが備わっており、ロボの保管だけでなく充電や管理も同時に行っている様だ。

 それらのハンガーを横目にお目当てのロボの位置を示すマーカーへ近付いて行くと、強調表示されているハンガーを発見した。


 目的のロボは、画像で見た重機の様な明るい黄色の装甲と黒いシャーシ眩しい新品では無く、軽く見ただけで中古と分かる程の損耗が有った。

 前腕から足先に至る人体を模した様なシャーシは、擦り傷だらけで塗装が剥げ地の色が見えており、右肩の装甲は銃撃の直撃を受けたのか丸い焼け焦げた様な弾痕が刻まれ、そこから内部のシャーシが見えている。


 中々の有様に問題無く稼働するのか気になったので、再度スキャンしてみると内部フレームや電子回路等の重要な部分は、補修や修理がされている様で問題なさそうだ。

 その上、幾つか機能の拡張と改造がされている様だが、起動させても危険は無さそうなので詳細までは確認しなかった。


「取りあえず、このまま起動しても問題無さそうだな。起動手順をメットに表示してくれるか?」

「はい。バッテリー残量も問題無さそうです。初回起動手順をメットに表示致します。」


 ガスに確認するとお墨付きとドクトゥスの起動手順を貰えたので、表示された内容に従いドクトゥスの起動を始めた。


 先ず、固定されているハンガーのスイッチを操作しモニターの画面を利用した認証用センサーで、俺の生体情報を此奴の所有者として登録する。

 所有者登録の完了表示がモニターへ出たら、タッチ式のモニターを操作して本体の電源を入れる。


 ドクトゥスの電源が入ると専用のOSが立ち上り、古いPCのハードディスクやファン等の内部部品が駆動する様な起動音が鳴り始める。

 暫く鳴っていた音が鳴りやみモニターに起動完了の表示同時に自己診断プログラムが始動し、自身の状態確認を始めた。


 プログラムの確認結果がハンガーのモニターへ表示され、バランサー、FCS(火器管制システム)、疑似人格、センサー、動力系、学習用思考システム等の各システムが問題無い事を表すグリーンで表示される。

  モニターの情報からドクトゥスの拘束を解除しても問題無い状態と判断したのでハンガーのスイッチを操作して、ロボ用のラックを棚から取り出す。


 取り出したハンガーに固定されたドクトゥスを観察すると、関節などの稼働箇所以外は塗装された装甲に覆われているが、背面部分の装甲は細かく分割されていて隙間が空いている。

 その隙間にハンガーから伸びたケーブルの先端が刺さっているので、それを引き抜きボタンを操作して固定器具を展開すると、折り畳まれていたドクトゥスの身体が本来の大きさを取り戻す。

 更にハンガーが可動して高さを調節しドクトゥスの脚を床に着けると、機体自体のオートバランスで直立したので拘束を解除した。


「メインシステム、初回起動モードでリブートしました。使用者登録された人物を確認。人格モデルの設定をどうぞ。」

「えーと。人格モデルは、N(ノーベンバー)P(パパ)53Y(ヤンキー)C(シエラ)33を使用。個体名称は、仮登録でドクトゥスを使用。」


 メットの画面に表示された複数の人格モデルの内、付き合いやすそうなものを選んび、名前も後で決めたいので仮のものを設定する。


「ジョン様。ご起動ありがとうございます。アス・エスケレト社製MBGー92 バンガード級ヒューマノイドロボット ドクトゥスです。ご命令をどうぞ。」

「学習装置の起動開始、促成用学習ルーチン発動。その完了後はアドミンOS管制下での学習のみを許可する。」

 

 無事に起動したドクトゥスは、成人男性タイプの合成音声で命令を求めて来たので、学習装置の起動とその使用を許可する。

 こうする事で今の命令待ちの状態から強い自我と個性を持つ存在に成って行く。


「学習を開始しました。他にご命令は御座いますか?」

「俺の端末と同期して端末のメインOSをアドミンと認識するんだ。ガス、同期をしたら此奴の内部を再スキャンしてセキュリティ関係を総ざらいしてくれ。」


 学習を開始して改めてこの世に生まれ落ちたドクトゥスに首輪を付ける必要があるので、俺の携帯端末と同期する様に命じつつ頭に端末を近付ける。


「ガス、どんな感じだ?」

「はい。現在、同期中です。盗難対策プログラムの掌握。マスタースレーブ機構設定。追加スキルプログラムの精査完了。通信用ネットワーク構築。」


 バイザーの中にあるモノアイが端末を認識しのか、チカチカと光を発し始めたのでガスに確認すると、肯定の返事と共に様々な文言が帰って来た。

 

 その中で特に気になったスキルプログラムについて、メットに表示される文章を読んでみる。

 どうやら、スキルプログラムとはロボットに特定の技能を付与する追加プログラムの事らしく、例えば対応しているロボに料理スキルをインストールすると、学習や経験が無くても料理する事が出来るそうだ。


 改めて、スキルプログラムの欄を確認すると、このドクトゥスは初期戦闘スキルと整備、修理スキル以外に、ヒューマノイド系種族への応急手当や治療行為のスキルを習得していた。


「ドクトゥス。お前の呼称をミックと設定する。今後は俺の事をボスと呼ぶように。これからよろしくな、ミック。」

「呼称名の正式登録を確認。ボス、宜しくお願い致します。」


「最初の任務を伝える。マークしたモジュールを取って上層階にある改造型テネブリアンに取り付けてくれ。細かい調整は、アドミンであるガスからの指示に従うように。修理に必要な道具は、端末からのリストを確認して自由に使用してくれ。」

「了解しました。」

 

「あっ。後、促成用の学習が済み次第、今送ったリストの中から一番、熟練度の高い武器を選んでくれ。」

「了解しました。目標物を入手後、目的地へ移動します。」


 俺は、初任務を命じられたミックがモジュールが置いている棚の方へ歩いて行くのを見送ると、自分が使う武器を拾いに俺も移動した。

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