第6話「非合法組織への支払いデータ」
地下の倉庫は、小さなバスケットコートが2面程並ぶ様な体育館と同じ位の広さが有り、その一番奥の角に俺が見つけた遺体達が倒れていた。
入って来た扉とは正反対に位置する場所で、近くには作業用らしき机と椅子が据えられている。
倒れていた遺体の1つは、オイル汚れの目立つシャツとデニムの様な生地で出来たオーバーオールを着た蜥蜴型のエイリアンだ。抑えている手を退けてみると、胸部に焼け焦げた様な跡がある。
もう一方は、へそ出しシャツにホットパンツとピストル用のホルスターだけを身に着けたヒューマノイド系の年若い女性で、露出度の高さと黄色味の強い肌が見て取れる。
「これ、どっちが店主でどっちが押し入った輩かわかんねぇな。服装的にこっちの蜥蜴と人の合いの子みたいなエイリアンが、店主だと思うけどさ。」
「レザルタント・ナジョラバスの男性とヒューマノイド系の女性ですね。防犯システムにマスター登録された生体情報と照合した所、ジョン様の言う通り此方の男性が店主です。」
センサーモジュールが二つの死体をスキャンして生体情報を得た所、イグアナの様な頭を持つエイリアンがこの店の主だと確定した。
店主の死亡がハッキリとしたその時、ヘルメットのディスプレイにクエストクリアの文字が表れたが、この店主がどんなヘマをしてこんな事に成ったのかは、以前として不明のままだ。
クエスト画面で完了報酬のSPと150アウレを受け取ると、ガスからスマホに新たなアプリがインストールされたと報告が有ったので、ホーム画面をヘルメットで確認してみる。
画面には新たにAを崩した様なアイコンのアプリが追加されており、ウォレットとアプリ名が表示された。
ガスによると、この世界では現金や電子通貨での売買の他に政府等が精製したインゴット等による物々交換も盛んらしい。
特に非合法な商いをしている者は、電子ドラッグ入りメモリースティックやナノマシン吸入器を求める奴も居るらしい。
ウォレットを開くと、画面のど真ん中に150アウレの表記があり、クエスト報酬がしっかりと振り込まれている事が確認出来た。
ウォレットのメニュー画面を見ると、電子決済や取引履歴の確認以外にも為替や両替等も出来る様だ。
一通り機能を確認してウォレットを閉じると、ヘルメットのディスプレイに新着を表す表示が出ていた。
どうも、新たに達成したチャレンジと新規のクエストが追加された様だったので、それらの確認も済ませてしまう事にした。
達成されたチャレンジは、【生存時間:5時間】【クエスト達成:1つ】【ウォレット機能の入手】で、合計3SPを入手出来た。
詳細も前回と同じくクエスト名以上の情報は、無く確認は直ぐに終わったので、新規クエストの確認に移った。
新規クエストは、【スペースポートへ向かえ】【業突く張りの顛末を確認しろ】の二つが追加されていた。
説明分を読むとスペースポートの方は、クエスト名そのままで、近くのスペースポートへ向かうとクリアの様だ。
もう一つの方は、エイリアンの店主がどんなヘマをして殺し屋風の女に狙われたか調べれば良いらしい。
少なくても爬虫類頭のこの店主が何らかのヘマをしたのは、確定したので後々の面倒事を避ける為にも店主がどんなヘマをしたのか調べる事にした。
「ガス。事務所のコンピューターから何か店主の問題について情報は見つかったか?何処かの組織と揉めているとか?」
「はい。従業員の作業用端末だったらしくそれらしい情報は、有りませんでした。しかし、帳簿データによると、ここ数年で何らかの支払い金額が増加していた様です。この支払先は、帝国法務省に登録されていない架空の企業です。以上の事から非合法組織への支払いデータと推測致します。」
クエストを受けた俺は、情報が有りそうな場所をガスに調べさせた事を思い出したので、質問してみるとそれらしい情報があったが、クエストクリアにはもっと詳細な情報がいる様だ。
取り敢えずガスから貰った情報と現場の状況だけで考えてみると、非合法な組織への支払いが出来なくなった店主に殺し屋か取り立て屋が来たが、同士討ちに成ったと見る事が出来る。
「ガス。この女の死因はなんだ?喉を掻き毟っている姿や口角周りの血を見るに毒だと思うけどさ。」
「はい。この方の死因は、特殊な毒針を撃ちこまれた事による中毒死ですね。ガスやウィルス兵器では無いので、周囲や遺体に汚染は有りません。」
ガスから周囲と死体の安全を聞いた俺は、辺りや目の前の死体を漁って情報収集を始める。
店主の死体の傍には、女性に毒針を撃ち込むのに使われたと見える拳銃らしき物と、SF版のアタッシュケース、座っていたと思しき椅子が落ちていた。
銃には小型のボンベが付いており、空気圧等で針を飛ばす様に成っている様で、一般的に流通していない様な、特殊な物だと感じた。
アタッシュケースは鍵穴やシリンダー等は無いが、何らかの電子ロックが掛かっている様で開かなかった。
女性の傍には大型の拳銃らしき物が一丁だけ落ちており、それ以外に目に付く物が無い為、彼女が手ぶらだったか第三者に荷物を持ち去られた可能性がありそうだ。
落ちていた拳銃は、現実世界の大型リボルバータイプの拳銃から円形の弾倉を抜いて、箱型の弾倉を入れた様な不思議な外観をしている。
「ガス。このアタッシュケースは手持ちの道具だけで開けられるか?」
「はい、可能です。アタッシュケースの持ち手にスマホの発光部分を近づけて下さい。」
スマホをアタッシュケースに向けながらガスに問いかけると、頼もしい返事が返って来た。
言われた通りにスマホの背面に有るカメラの様な発光部分をアタッシュケースの持ち手に向けると、例の如く青い光が伸びて行った。
光が止むと、アタッシュケースから空気が抜ける様な音が鳴り、蓋と本体に隙間が出来た。
スマホを仕舞い、アタッシュケースの蓋を開けて中を確認すると、緩衝材で出来た仕切の中に鈍く輝くコインとUSBの様な毒々しい蛍光色のメモリースティック、そして手のひらサイズの円形の電子機器が丁重に納められていた。
「ガス。この円形の電子機器はなんだ?触っても問題無い物なのか?」
「これは、ホロメッセージの投影端末ですね。入力されたホロメッセージを空中投影する為の装置です。ジョン様の世界で言う重要書類等と同じ扱いをします。通信機能やメッセージの削除機能も無い様なので触っても問題御座いません。」
ガスに危険の有無と使い方を確認した俺は、恐る恐る投影端末を手に取って起動した。
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