第5話「じゃあ。試運転でもするか」

 ヘルメットにクエストクリアの表記が出た瞬間、修理機械からアラーム音が鳴り響き作業の終了を告げ始めた。

 機械を操作してテネブリアンの状態を確認すると、修理が無事に完了していた。

 燃料缶を台座にセットし自動給油機能を始動させ、エネルギーケーブルをテネブリアンのソケットに刺して、エネルギーと燃料の供給を始めた。


 作業を最後まで終えたのでメニュー画面を開き、クエスト画面を選択して【多脚マシンの修理】を見ると、クエストの状態と言う欄に完了と記されており、報酬の入手が出来る様に成っていた。


 早速、報酬の入手を選択してみると、目の前に光の粒子が現れて20センチ程の長方形を形作り出したので、落ちる前に右手で掴み取った。

 濃いグレーのそれは、特段重くも無く表面に四つに割れた菱形の溝が有る以外に目立つ所と軽く曲線を描いている所以外に特徴が無い。

 しかも、外からの情報を受け取れる様な機関が、見て取れないので本当にセンサーモジュールか不安を感じるが、手元にはこれしか現れて無いので仕方なく改造をする事にした。


 右手にセンサーモジュールを持ちながらスキル【スーツ改造】の発動を意識すると、ヘルメットに俺の現状を3Dで表したモデルと改造箇所の選択と言う文字が表れた。

 俺は、その3Dモデルを見た時に始めてずっと被り続けていたヘルメットの外観を見る事が出来た。


 顎から前頭部分までの一面を樹脂製に見える素材で出来たバイザーが曲面を描きながら覆っており、顎の下や後頭部、耳等のバイザーが覆っていない部分は塗装された金属感のあるパーツが保護しているが、何処まで耐久力が有るのか不安である。


 そんな少し頼りないヘルメット部分を選択する為、目線を向けつつ瞬きを二回して視線入力を行うと、ヘルメットがズームアップされ【強化パーツの使用】と【資材の使用】と言う二つの選択肢が出て来た。

 俺が【強化パーツの使用】を選ぶと、今度は【使用するパーツを選んで下さい】と言う文字とセンサーモジュールしか載って無いリストが出て来たので、センサーモジュールを選択する。

 使用すると、パーツが消費される旨の注意文章と再度の確認がでたので、使用するを選んだ途端、手に持ったセンサモジュールの感覚が消え、映し出されていたヘルメットの額部分にそれが取り付けられていた。


「センサーモジュールの接続を確認しました。音声入力により、範囲内のスキャンを行います。」

「じゃあ。試運転でもするか。鏡ってこの施設に有るかな?」


 ガスが無言で建物の端に有るブースをマークしたので、その中へ入ってみるとトイレらしき個室と手洗い場が有った。

 手洗い場の上には、表面が水垢と油汚れで醜くなった大型モニターが、鏡の代わりに掛けられていた。


 俺は、鏡で自分を見ながら起動用コマンドワードを唱えると、視界に光の波紋が広がり、モニター裏の壁や天井に埋められた配線やコンテナの中まで精査出来た事を視覚的に把握出来た。

 鏡で頭に付けたセンサーモジュールを確認すると、菱形の溝が全て稼働しており、内部の青く光るセンサー部分を露出させていた。


 如何にもSFスペースファンタジーらしいセンサーモジュールに満足したので、次は辺りを見回して透視した様な視界を楽しんでいると、幾つかの配線が壁から地下に向かっている事に気付いた。

 俺は、地下に何らかの隠された設備が有ると感じたので、直ぐにクエスト画面を開いてクエスト【違法廃品回収業者の行方】を受注した。


「ガス。視界を元に戻してくれ。そんで、地下にエネルギーラインが伸びてる。恐らく何らかの施設があるはずだから、それに入る方法を探査してくれるか?」

「かしこまりました。構造物の精密探査を開始。ソーラーコンバーターから地下へのエネルギーラインを確認。不審な地下空間を確認。隠匿されたドアとアクセスパネルを発見しました。箇所をマークします。」


 ガスに地下施設の探査を依頼すると、俺が工具を取った壁の横にマークがされていたので、近寄って確認したがアクセスパネルの開け方が分からなかった。

 アクセスパネルは壁と同じ様な外観をしており、開け方の目途が付かなかったのでガスに全部任せる事にした。


「ガス。アクセスパネルに何らかのセンサーが仕込まれてないか確認してくれないか?開ける為に何が要るのか知りたい。」

「かしこまりました。アクセスパネルをスキャンします。複数の感圧式センサーを探知しました。三つのセンサーを同時に押す事で開ける事が出来ます。感圧式センサーの位置をマークします。」


 ガスがマークした三つのセンサーを同時に押してアクセスパネルを開くと、中には事務所でも見た感光式のセンサーと開閉用ボタンに幾つかの接続用ポートが有った。


「ガス。センサーから内部に侵入して隠し扉を開けてくれ。」

「スマホを向ける必要は御座いません。視線をセンサーに向けて下さい。」


 ガスに言われた通りに視線を向けると、ヘルメットのセンサー部分から見覚えの有る青い光が出て、アクセスパネルに伸びた。

 受光部分に光が当たり、ガスが地下施設のシステムを掌握すると、アクセスパネルの横側の壁がスライドし始め、隠し階段が姿を表す。


 階段は螺旋状に成っており緑の光で照らされている。それを底まで降ると、目の前には重そうなスライド式の両開きドアが待ち構えて居た。

 ガスへ開ける様に言う前にドアから電子音が鳴り、空気の抜ける様な音と共に目の前が開けた。


「ガス。此処のスキャン実施と照明の点灯を頼む。それと貯蔵された物資の目録作成と生命体の痕跡も調べてみてくれないか?」

「かしこまりました。施設内のスキャン実施中。放置された物資の目録を作成。施設内に有機物を見付けました。マークします。」


 機密性の高そうな扉の先には、大量の棚とそこに仕舞われた膨大な量のジャンク品らしき物が有った。

 棚で並べられているそれらは、上で見たコンテナに投げ入れられていた物よりも丁寧に扱われているのか、丁寧に梱包されている物や台座に並べられていたりと、様々だ。


 しかも、それらの物品は種類毎に棚を分けている様で、車のマフラーの様に見える部品等の車両関係に見る物が並ぶ棚やロボットのパーツに見える機械式の腕や脚、ロボ本体が並ぶ棚、爆発物や銃のケースに見てとれる箱や台座に飾られた銃や刀剣が並ぶ棚が列を成している。


「この中で所持だけでも違法な物を俺が、持ち出しそうになったら警告してくれ。」

「かしこまりました。目録にもその旨、記載いたします。」


 違法な業者が地下の隠し倉庫に仕舞い込んだ品が、真面な物のはずが無いのでガスに持ち出し厳禁な物をピックアップして貰う。

 次々に棚に納められた物をスキャンしながら、ガスがマークした有機物がある場所に向かうと、胸を押さえながら事切れてるエイリアンと、喉を掻き毟りながら断末魔の表情を浮かべる人間の死体が有った。

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