第4話「Mk.5マルチツールシリーズ」

 眼の前のマシンには機械の脚がマシンの中央に6本付いており、その機体構成はまるで昆虫を模しているかの様だ。

 脚部の先は砂地での機動力を高める為か、履帯と成っており全体を覆う装甲板と合わさって無骨な見た目を成している。


 脚の付いている部分を昆虫の胸と見立てた時、コックピットが頭の位置に有りその作りが元の世界に有った重機の物と似ている為、傍から見てもその中の狭さが伺える。


 昆虫の腹にあたる部分はオープンタイプの貨物室となっており、その広さは軽トラより少しは広いと言った位で荷物はそこそこの量を運べるだろう。


 マシンの各所を弾痕の付いた装甲が覆っている上、コックピットの下には機関砲らしき物が二門も備え付けられているので、とても物騒に見える。

 

 

「ガス。こいつの型式は、MLMー23Cで合ってるか確かめてくれ。」

「データベースで紹介致します。スキャンしますので、スマホを向けて下さい。」


 九分九厘、目の前のマシンがクエスト目標だと思うが、念のためガスに確認するとマシンのスキャンを求められたので、二の腕からスマホを外して前に掲げる。


「了解。これでどうだ?」

「スキャン始めます。スキャン完了。バグアンマシンテック社のMLMー23C、テネブリアン民生モデルで間違い有りません。ただし、かなり手が加えられております。合法、非合法を問わない改造が施されていますね。」


 このスキャンをする動作にも慣れてきたなと思いつつ、マシン全体を捉える様にスマホを動かすとガスから直ぐに返答があった。


「非合法な改造ね、確かに。民生モデルにしては、銃らしき物も付いてるし、装甲も分厚いよな。」

「元はこの様な機体でした。」


 民生モデルや非合法と言う単語が、気になってしまい独り言を言ってしまったのをガスが捉えた。

 ガスは、事務所から着けたままのヘルメットへ改造前の物とおぼしきテネブリアンの画像を映し出してくれた。


 様々な方向から取られた画像と目の前に鎮座している物を見比べると、改造前は全体的に華奢で砂漠を進むには不安がある。

 改造前の脚は全体的に細く装甲も無いので頼りなく感じる上、履帯の代わりにタイヤが付いているので、市街地等の舗装された道の移動を前提としている様に見受けられた。


「変わりすぎだろ。あら、元は機関砲じゃなくてライトとウインチだったのか。うわぁ、これ機関部を丸ごと載せ替えて無いか。荷台とコックピット以外に元のと似てるとこ無いよ、これ。」

「確かに、エンジンやジェネレーターの他にエネルギーチャンバーやフューエルラインにエネルギーラインと大部分を軍用品へ替えてますね。脚も砂漠地帯向けのオプション品ですね。」


 ガスの解説を聞きながらテネブリアンの周りを回りながら、心行くまで観察した所で本来の目的を思い出した。 


「ガス。こいつを動かすのに必要なタスクを纏めてくれないか?纏めたらヘルメットに表示してくれ。」

「かしこまりました。先程のスキャンと室内のスキャンした結果より導き出されるタスクは、三つになります。修理機械自体の修理、修理機械を使っての修理、燃料及びエネルギーの供給となります。」


 俺の指示どうり、ヘルメットに表示されるタスクを見ながらガスの話を聞く。


「先ず、修理機械自体の修理をするのに必要な工具と材料を入手しましょう。目標をマークします。」

「ありがとう。さっさと終わらせるか。」


 ガスがマークしてくれた目標物を集める為に、先ずは入って来た時に見かけた工具の掛かった壁へと向かいマークで指定された謎の部品を壁から外し、傍に置かれていたツールボックスの様な物へ入れて行く。

 全て仕舞い終わったツールボックスを手に持った時、スーツの機能を思い出したので腰辺りにマウントする。


 次に反対の壁際に設置された棚へと向かい、取り付けられているタッチパネルをヘルメットの表示通りに操作する。

 棚は、壁一面を覆う程大きく大量のコンテナを抱えているが、操作を受けた棚が稼働して目的のコンテナを取り出し口へと運んでくれるので、その中身を取り出していく。


 ガスがマークした物を一通り取り出した後、それらを近くに有ったトレーに載せてテネブリアンが乗った機械へと運ぶ。

 機械へ近付くと、機械修理スキルが働いているのかどの様な作業が必要なのか何となく分かるので、その感覚に従って作業を始めた。

 腰の工具を使って機械の外装を外してコンテナから取り出したパーツに交換をしたり、固着したグリースの様な物を剥がして新しい物を充填して行く。

 最後に外した外装を戻すと、スキルからの感覚は無くなった。


「こんな所かな。それにしてもこの工具箱は、便利だな。使いたい工具を呼べば、持ち手が取り出し口に出てくるとは。これも貰って行くか。」

「ビクト社製のMk.5マルチツールシリーズですね。何世代か前の商品ですが、傑作と名高く愛用する人が多いそうです。いざと成れば、換金も出来る品なので持って行くべきですね。また、スーツを強化すれば私が工具を出す事が出来る様になります。」


 ガスと喋りながら機械の電源を入れ、試運転を始めて機械の調子を確認して行くと特に問題無く稼働するので、パネルを操作してテネブリアンの修理を始めて行く。

 先ず、故障箇所診断機能を使用してテネブリアンの損傷箇所を把握したら、それぞれの修理手順を機械に入力する。


「こいつが作業している内に燃料とエネルギーを供給出来る様にするか。ガス、備蓄の場所をマークしてくれ。」

「燃料は備蓄缶に入っています。マシンの始動用エネルギーは、そちらにケーブルが御座います。エネルギーは現在チャージ中なので、もう少々お待ち下さい。」


 必要な入力を受けた修理機械は、自身のマニュピレータを使ってテネブリアンの装甲を外すと、バチバチと火花を上げながら内部の修理を初めて行った。

 修理機械が独りでに動くのを尻目にしながら、ガスが新しくマークした燃料缶を取りに行った。


 元の世界でも見た事が有るような燃料缶二つを修理機械の傍に置き、エネルギーケーブルのソケットを用意し終えたタイミングで、ヘルメットにクエストクリアの表記が表れた。

 

 

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