4. 昨十月 / 好き

昨年の十月、男は女と羽田にいた。地方のライブに遠征するためだ。男は日に日に変化するLCCの搭乗手続きに手間取い、結果的に二人は飛行機に乗り遅れた。少し後の便を手配できたため無事に現地入りができたが、予定していた地元名産の料理を堪能できなかった。


フライトと同じように少しづつ気持ちもズレていった。焦りや憤り、うまくいかないときは素の自分がでる。もともと二人の性格は合っていなかったのだろう。互いがつくろっていたものはあらわになっていき、これをきっかけに頻繁にどちらかが機嫌を損ねることが多くなった。


最初に明確なシグナルを出したのは男だった。このままだと楽しくない、そう言った。女も同じ考えだったのだろうが、何より間が悪かった。女が二人の関係を考え続け、疲れ果てていたときだった。女の気持ちは急激に冷め、今は気持ちがないことを伝え、距離を置こうと提案した。


男はその状況に置かれてはじめて自分の確信的な気持ちに気づいた。男は女のことが好きだった。後悔しかなかった。楽しめないなら、なぜ楽しめる努力をしなかったのか。女の気持ちに甘えていた。男は女に依存されていたのではなく、実際には男が女に依存していた。


そんな男がメッセージの中で女に言った。

「好き」

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