あの日と同じ気持ち
「浴衣で寝たいの? 糸」
「うん、久しぶり着てみたいなと思って」
「逆に暑いんじゃないかしら」
「ほら、私が小さい頃に着ていた、ちょっとさらっとした布でズボンと上と別れているの」
「ああ、甚平? まあ寝るときには良いかもね」
私はお母さんにそう頼んだ。甚平というとは知らなかったけれど、あれならば袖も短いし機を織るのに邪魔になりそうも無い。
そして寝る直前に下に長袖を着ておけば良いはずだ。
「寒くないようにしようね、糸ちゃん」
「うん、寒さで帰りたくは無いから」
色々物を準備して、旅の日がやって来た。
「糸ちゃん、本当に大丈夫? 」
「うん! 必ず謝るから見ていてね」
「わかったよ、じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
そうして目が覚めた。最初の時と同じあの囲炉裏、おばあさんと二人、私はツルだった。
でもおばあさんはあの日とは違った。何度も何度もため息をつき、ツルの私をちらっと見ては、また目をそらした。まるで自分が悪いことをしたかのように。そしてぽつりと
「あれは・・・夢じゃったのかな・・・息子に何も話さんでよかった」
とてもとても寂しそうだった。
「糸ちゃん、ほら変わり始めるよ! 」
ミミミの声で、私はちょっと構えた。そしてちょっとだけ鳴くと、おばあさんは私の方を向いて、また驚いた顔をした。決して嫌そうでは無かったので、私は安心して、姿勢を正した。床の上に甚平姿でキチンと正座して、手をついて、
「おばあさん、ごめんなさい。私、布を織ることがどんなに大変な事か全く知りませんでした。お願いします、もう一度私に教えてください」
日本代表選手が教えてくれたサッカー教室の時のように、
すがすがしい気持ちで、私は頭を下げた。
糸ちゃんの夢 @watakasann
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