二人の不機嫌
「いや・・・・似てるようじゃがやっぱりちがう・・・」
さっきのうれしそうな声を聞いた後なので、私はどう言っていいのかわからなかった。きっと私くらいの年のときに、娘さんが亡くなったのだろう。それを考えたら、胸が苦しくなった。
「じゃあ・・・あんたはツルなんか? 」
「えーっと・・・・ツルじゃないです、人間です」
そのあと私はパッと、心の中にひらめいた。
「おばあさん、私に機織りを教えてくれませんか? この前、機織りをしたかったのだけれど、丁度機械が壊れていて」
それは家族旅行の時だった。藍染めをして、それから機織り体験も出来るはずだったのだけれど、急に機械が壊れて「本当にごめんなさいね」とお店の人に謝られたのだ。
「機織りをしたことがない? あんたは・・・・・お嬢様かね・・・」
私をじろじろ見たけれど、良く見えていないのか、それともおばあさん自身がやっぱりそうしたいのか
「まあ、いい、とにかく織ってみると良いさ」
と案外と早足で小屋に向かった。
「糸ちゃん、いつもとちがうけれど、楽しそうだね」
「うん、機織りしてみたかったの」とっても小さな声でミミミと話していたから聞こえることは無いと思うのだけれど。
「ほら、急げよ! 」と言われて私はダッシュした。
「ここ座って、これを持って」
とおばあさんから渡された。糸のついた笹の葉っぱみたいな形の木、確か「杼(ひ)」とか言っていたような気がする。これが壊れて出来なかったのだ。大きな機織りの機械が壊れたわけではなかったのにちょっとびっくりした。
「これを糸と糸の間に通す、そして足で踏んで、上をトントンとやって反対側からもどす」
早口で言われて、せかされるようにやってみたけれど、上手くいかない。
「ほらほら、簡単じゃないか、通してトントン、反対から通してトントン」
確かにそんなに難しそうではないけれど、なにせ生まれて初めての事だから、手元が狂い、中に通せずに上下の糸に杼がぶつかってしまった。
「不器用な娘じゃなあ、本当に」
本当の事だけれど、やっぱり私は傷ついていた。そしてやればやるほど緊張して行き
「ぶつけてどうする? 糸が痛むじゃないか! 」
ものすごく怒られてしまったので、私も我慢の糸がぷっつりと切れてしまい、何も言わずに機織り機の椅子をガタリと鳴らしてその部屋を急いで出た。おばあさんの声がした様な気はしたけど、私は走りながらミミミに
「ミミミ! 私帰る!!! 」
初めてそう言った。
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