優しい息子
「ああ、腹が減ったか、待て、餌を用意してやるから」
おばあさん、よりもちょっと若いかもしれないけれど、その女の人は眉間にしわを寄せて、ぶっきらぼうにそう言った。
博物館で見るような昔の日本の家だった。おばあさんは囲炉裏のそばから立ち上がって、下に置いてある草履をはいた。確か土間と言ったと思う、昔の台所だ。かまどがあって、横に藁も置いてあった。そして長細いおけに、お米か何かを入れているようだった。
「さあ、外へ出るぞ」と言われたので、私は立ち上がった。
「え! 」
「どうした、ほら急ぐぞ」おばあさんは家の引き戸を開けて外にもう出ていた。
「どうしたの糸ちゃん、どこか痛い? 」ミミミが心配そうだが
「違うの、足の関節が・・・逆だから。そうか! 鳥って人間と逆方向に曲がるんだったね」
「そうだよ、糸ちゃん自分が何かわかる? 」
「えーっと・・・・」
鳥なのに大きな体、そして楽々と土間に降りられる足の長さは
「ツル! だね!! 」
「正解!! 」
「ほらほら急げよ! ワシは厠に行ってくるから。その間タカに用心せいよ、お前に万が一のことがあったら、ワシが息子から叱られる。
全く・・・・・あいつの動物好きにも困ったもんじゃ、嫁も取らんといかんのに」ぶブツブツ聞こえたので、私は急いで外に出た。昔の家はトイレも外にあるのだ。
「わあ! 」
すごく眺めが良かった。このお家は山の少し高いところにあって、家の前は段々畑、か田んぼになっている。下の方は広い平野だった、
大きな川も見える。そして遠くだけれど何かが集団で動いているのが分かった。
「あれは、ツルの群れかな? 」
「そうだろうね、きっとおばあさんの息子が怪我をしたツルを連れて帰ったんだろう」
「優しい息子さんだね。昔から動物に優しい人っていたんだね」
「日本にはお話があるんだろう? 糸ちゃん」
「うん、ツルの恩返しっていうお話があって、助けたツルが女の人になって・・・・・え! もしかしたら、私結婚しなければいけないの!!! 」
「糸ちゃん、それは絶対大丈夫」
「あ、安心した、それにお腹すいた、食べよう」
長いくちばしで私は食べ始めた。もさもさした感じがしたけれど、とにかく食べていると、段々美味しく感じはしめた。
するとおばあさんが厠から出てくるなり
「ああ、忘れとった、ツルのためにあの子がタニシを捕ってきとったな。怪我を治すにはいるやろうと」
私は食べながら、ちょっとだけ、その息子さんのお嫁さんになってもいいかなと思った。
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