糸ちゃん鶴になる

「糸ちゃんはフェアアイルセーターのどの模様が好き? 」

「全部可愛い!! 名前も面白いね、カラスの足跡とか。でもやっぱりアルマダクロスが特別になりそう。あのね、お母さんが「セーターは無理かもしれないけど、手袋なら編めそう」って言ってくれたの。最後の旅で見た、アルマダクロスのミトンにしてもらおうかな」

「それもいいね」

町の図書館で何冊かフェアアイルセーターの本を借りてきた。中には図書館の「書庫」にある古い本もあって、それに載っているフェアアイルセーターをきっとおばあちゃんはお手本にしているのだろうと思ったら、お母さんが

「あ! この本、私が小さい頃家にあったわ! 」と言った。

「そうなんだ・・・・」

おばあちゃんが読んだ本と同じものを読んでいると思うと、とってもうれしかった。

 アルマダクロスの歴史もその本に載っていた。やはりスペインの船が難破してフェア島にたどり着いた時に、船員達が島の人に教えたと言われているそうだ。でもフェア島でのことが本当にあったことなのか、アルマダクロスがその時に伝わったのかの証明は難しいらしい。

「ああ、もし病気にならなければ、教えている様子を見られたかな、残念」

「そうだね、糸ちゃんが歴史の証言者になれたかも」

「ああ、それは難しいよね。だって私は羊だったんだから」

でも、本を見ながら

「あ! ここ!! 海藻を食べたところはずっと変わらず、羊たちがいるんだね、ちょっと岩場が削れいてるかなあ」

「ハハハハ、見るところが面白いね、糸ちゃん、そこが一番の思い出の場所かな」

「だって、ワカメも海苔も好きなだけ食べられるようになったんだもん、ここに感謝しなきゃ」

「確かに。本当に糸ちゃん大丈夫になったんだね」

「うん!! 」

 ミミミとの旅の中でも、後でも、色々な事を知ったけれど、今回はとってもうれしい結果だった。

「今度は日本の旅でしょ? どうなるかな? 」

「うん、久重が考えるからね。どうなるんだろうね」

「とにかく体調に気をつけるから、ミミミ」

「僕も悪いけど、旅の前はきびしい目で、糸ちゃんの健康観察をするからね」

「うん!! 」

 これから先も、私のためにミミミが怒られないようにしなければと思った、もちろん久重さんも。

 毎日、お母さんともミミミともフェアアイルセーターの事を話している中、新しい旅の日がやって来た。


「元気そうだ、糸ちゃん、でも怪我には気をつけてね」

「うん、じゃあおやすみなさい、ミミミ」

「後でね、糸ちゃん」


 

 そうして目が覚める前に、木の匂い、炭の匂いがして、きっと外は寒いだろうけれど、部屋の中は温かく保たれているのだとわかった。

でも何だかちょっと右手が重く感じたので、動かして見ると、

バサバサっと音がして、しかも手の先が急に熱く感じた、それと同時に

「こら! 大人しくせんと、羽が焼けてしまうが! 」

女の人の声がした。

「え!羽? 」

確かに今までの中で一番、体が軽く感じた。

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