副産物
「お母さん、ちょっとだけそのワカメとキュウリの酢の物食べてみたい」
夕食の時、私は言ってみた。昨日旅が終わったばかりだったから、何故か無性に食べたくなった。
「大丈夫かしら? でも食べたいのなら・・・・・」
「糸、これ鳴門のワカメなんだ、美味しいよ。今日は土曜だから、もう一日やすみだろう?」
「そうね・・・・体も大きくなったし、食べてみたら? 」
お母さんもお父さんもそう言ってくれたので
「うん!! あ! 美味しい!! 本当に美味しい!! 」
「そうだろう!! 職場の人にもらったんだ! ああ、でも糸、あんまり食べたら・・・」
「大丈夫! よく噛むから!! すごく美味しい!!! 」
「糸! 急にそんなに食べたらだめよ、まあ、そんなに睨み付けなくても・・・・」
「え! 私睨み付けてた? 」
「うん、餌を獲られた動物みたいに」
「え! 」
という面白いことがあった。
部屋に帰ってミミミに話すと
「ああ、羊の食性が残ってしまっているのかな? 糸ちゃん、大丈夫? 夜、体に何かあったら、すぐぼくを呼んでね」
「うん! でも大丈夫そう!! 」
と思ったからか、その日の夜は大丈夫だった。でもさすがに私もお腹が痛くなるのは嫌だったので、二日連続は止めておこうと思った。
でもやっぱりワカメ、昆布が食べたくなって、ちょうど良く月曜日、給食でワカメが出た。
「桑野さん、ワカメは止めた方が」先生言ってくれたけれど
「いえ、最近食少しずつ食べられるようになって」とちょっとウソに近いことを言ってしまった。
が、罰が当たることもなく、全然平気だった。
「お前、大丈夫になったのか? 」
「うん、そうみたい」
礼も驚いていた。
そのまま何週間か過ぎた頃には、私は毎日ワカメや昆布を食べもなんともなくなった。
「糸は、海藻類を食べると下痢になるという、ちょっとした暗示にかかっていたのかな? 」
「暗示って、思い込みってこと? お父さん」
「それに近いかな、腸は精神と密接に関わっているらしいから
だって糸は海藻にアレルギー反応はなかったんだから」
お父さんはそう答えを出したようだったけれど、でも、一番このことを考えているのはミミミだった。
「ウーン・・・・・ただの暗示にしては今までの糸ちゃんの症状が説明できないと思うけれど」
「あんまり深く考えすぎじゃない? ミミミ」
「もしかしたら夢の中で何らかの細菌が入って、結果的に良い方向に向いたとしたら・・・逆のこともあるかもしれないし」
部屋に帰ると、その話しが中心になってしまって、本で調べたフェアアイルセーターの美しい模様のことは逆に後回しにされてしまった。私の体の事を心配してくれるのは有り難いのだけれど、正直残念に思っていた。
そして、お母さんが買い物に出かけて、ちょうど私が一人でお留守番をすることになると同時に、私の部屋にお客さんが来た。
久重さん、ではなくて
ロボットさん、だった。
「糸ちゃん、糸ちゃんの体の変化については、ミミミ君から詳しく聞いているけれど、会って直接話しを聞かなければと思って」
ものすごく、ものすごく、詳しく聞かれた。お腹のどの辺がいたくなったかとか、痛み方は最初の頃はどんな風だったかとか。
今まであったどんなお医者さんより真剣に聞いてくれたけれど、
その質問に疲れたころ、ちょうど良くお母さんが帰ってきてくれた。
「ああ、本当はお母さんにお話を伺いたいところだけれど、糸ちゃん、この紙にお母さんに聞いて欲しい事が書いてあるからね。今晩また来るよ」
そう言って帰って行った。
「ミミミ・・・・・お菓子取ってくるね・・・・」
「疲れた? 糸ちゃん。でもさすがだね、すごいお医者さんだ。そうか、やっぱり勉強になるな」
階段を降りながら私は思った。
「私は勉強よりも手芸のほうが好きだな、あ、でも何歳頃から海藻がだめになったかお母さんに聞いておこう、そうじゃないと旅が出来ないかもしれないし」
旅のためなら、ちょっと面倒なことも我慢できるようになった。
自分でも「成長したな」と思った。
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