一週間 一ヶ月

「試合会場の近くだったから、私試合が終わって、展示会に行ったの。糸ちゃんも見に来たら良かったのに。糸ちゃんのセーターの前でみんな写真を撮ってたわ。私もちょっと糸ちゃんの話をしたの」

「そう、とにかく良かった。おばあちゃんきっと喜ぶと思う」

「糸ちゃんのセーターをそっくりコピーして編んでる人もいたの。

でも不思議、同じ赤でもほんのちょっと色が違うだけで、別のものに見えた」

「そっか、色ってそれだけ微妙なんだね」

「お母さんが言っていたの、毛糸にはロット番号って言うのがついていて、同じ番号は同時に染められたものだから色もそっくり同じだけど、ロット番号が違うと、同じ色でも違う場合があるんだって。だからセーターみたいに大きな物を作るときは、たくさん揃えておかないといけないって」

「おばあちゃんは手芸屋さんだったから、それは出来たかな」

「そうかもね」

 展示会の様子は、京子ちゃんのお母さんから動画も写真もたくさん見せてもらえたので、行った気分になれた。ミミミとの旅ではセーターを編むところは見ることも出来なさそうだから、本当にちょうどよかった。



部屋に帰ってミミミと話をした。

「今度また別の所で展示会をするんだって。その時はおじさんのセーターが行くかもしれない」

「そうか! それは楽しみ! 」

「いいなあ、ミミミは見に行けて」

「じゃあそれを旅にする? 」

「それは、ウーン」

一週間はあっという間に過ぎて、またフェアアイルの日がやって来た。今度は体調も万全だし、島を駆け回って遭難した人達とセーターを見る事ができたらと思った。


「糸ちゃん、はりきってるね」

「うん! 今日はいっぱい走るよ! じゃあおやすみなさい、ミミミ」

「おやすみ糸ちゃん、また後でね」

そうして眠った。




 最初に気が付いたのは、口の中の「冷たさ」だった。

「あー、またこの子が、羊が海藻を食べているのか。前みたいになるとまた変に思われるからしばらく食べよう」

と私は目がしっかりと見えるより先に、口をずっと動かしていた。

すると徐々に海が見え始めた。同じ場所、同じように、曇り空で波も高い。横を見ると羊たちが黙々と海藻を食べている。群れの仲間達だ。

「人間も偉い事をするんだなあ。助けてやったみんなも、随分元気になった」

「ああ、畑仕事手伝っているヤツもいるな」

「まあそれぐらいは当たり前だろう、ハハハ」

みんな人間のように世間話をしながら食べている。

「私もしばらく食べないと。ああ、これワカメかなあ美味しい! ちょっと塩辛いけど、いつもは食べられないからちょうどいい! 」

黙々と私が食べていると

「それが旨いのか? お前は旨い海藻を見つけるのは本当に上手だから」

「おいおい! そいつのを横取りしたら大変だぞ! 大好物なんだから」と誰かが言ったので

「いいよ、ちょっと行ってくるから」

と私は急いで坂の方に向かった。

「あれ? あいつあんなに足が速かったかな? 」

「逃げるときは速いだろう? 臆病だから」

「でも遭難者が来たときは逃げなかったじゃないか、感心したよ」

羊たちの会話は聞こえていたけれど、とにかく一人、一匹になりたかった。


そうして、また島が見渡せる場所に立った。

「わあ、風が寒く感じる、ミミミ」

「冷たい海藻を食べたからもあると思うよ、糸ちゃん。それに9月だからね」

ミミミが私の肩の方からぴょこんと顔を出した。島の家々からは同じように勢いよく煙が立ち上っていて、でもこの前と違って、畑仕事をしている人がたくさん見えた。

「あの人達がそうなのかな? 行ってみようかミミミ」

「そうだね、糸ちゃん」

私は早足で畑の方に行ってみた。でもその人達は気にせずにずっと畑仕事をしている。寒そうな格好をしている人もいるし、厚手のコートのようなものを着ている人もいる。私がしばらく眺めていると

「ん? この羊一匹だけだな。もしかしたら・・・これが神の羊か? 

確かここの家の羊なんだろう? 」

「でも、この前触ろうとしたら、すぐに逃げたじゃないか」

男の人達がそう話し始めたので、私は先に進むことにした。

しばらく歩いて

「ミミミ、あんまりじっと見ていると確かに変に思われるかな」

「まあ、それはあんまり気にしなくて良いと思うよ」

「そうだね、とにかく先に進もう」

私とミミミは島にある家を一軒ずつ見て回ることにした。

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