島の人々
小舟の全てが島にたどり着き、しばらくしてからのことだった。
羊たちが駆け上がった坂から、何人かの人間が降りてきた。でもその人達の顔は、この遭難した人達をすぐに助けてあげたいと言うより、怖さのほうが多いようだった。
「どうしよう・・・」
でも剣を持っている人はそれに手を伸ばしてもいないし、島の人ももちろん武器になりそうな物は全く持っていない。ミミミと話がしたいけれど、人が多すぎて無理なので、とにかく私は島の人達の話しを聞こうと思い、近くに行った。彼らももう浜に降りていた。軍人さん達との距離は、ほんの数メートルだった。
「お前がここにいたのか? 臆病なお前が? それとも海藻を盗られると思ったのか? 」
多分、この羊の飼い主なのだろう、お父さんくらいの年の男の人は、私のことでほんの少し笑ってくれた。私は「メー」と一声鳴いて、今度は走って、私を神の羊と呼んでくれた、目と感の良い男の人のところに行き、私から彼にネコのようにすり寄った。そして、羊らしく何度も「メーメーメー」と鳴いてみた。
「ああ・・・もしかしたら、島の人間と私達を取り持ってくれるつもりなのですか」
「メー」
と返事をしたものの、これからどうなるかわからない。すると島の人、私の飼い主とは別の人が一番先に出てきて
「私達のできる限りのことはいたします、さあ皆さん、どうぞ家のほうへ」
と手を坂のほうへ大きく伸ばした。
私は夢の中では、全ての言葉がわかる便利な事になっているけれど、通じるのだろうかと心配した。でも手を伸ばした男の人は、さっきとは違い、落ち着いてやさしく、立派な人に見えた。
今度は軍人さんの一人が歩み出て、
「どうもありがとうございます」とその人と握手をして
「怪我をした者から先に」とやさしく命令すると、みんな坂を上り始めた。
「良かった・・・ありがとう、またあなたのおかげだ」
私はまたあの彼にやさしく抱きしめられた。この人は他の人を助けるために先に登って、人がどんどん少なくなってくると、残った人達は
「本当に神の羊かもしれない、我々を先にと思っているんだ」
と話し始めた。
私としては、もちろん遭難した人達をと思っていたのもあるし、海辺でゆっくりミミミと話をしたかったからと言うのも本心だった。
人間達が坂を登ってしまって、私は浜にある小舟に人が残っていないかをもう一度確認してまわった。
「糸ちゃん、偉いね」毛の中から声がする。
「船に残された人はいないね、大丈夫。そういえば見回るように言っていた人もいたね」
「彼が船団長なんだろう」
「船団長? 船長よりも偉いの? 」
「海軍の船は何艘もあるから、いくつかの部隊、船団に別れているんだよ、その中の一番偉い人だ。でも糸ちゃん、今回も大活躍だね」
羊の体からミミミはぴょこんと頭だけ出して、説明してくれた。
「そうかな・・・あ! そう! 私も上に登ってみたい。ここがフェア島で、上の方に人が住んでいるんでしょ? 」
「うん、そうだね、この辺りの海辺には家はないみたい」
「よし、早速登ってみよう」
と土と小石の坂道を登った。その途中でお野菜を煮ている匂いがして、きっと島の家では遭難した人達の料理をいっぱい作っているのだろうと思った。
「島の人達は優しいのね、それにお野菜がたくさん採れる島なのかな」
「とにかく糸ちゃんの目で見てみて」
「うん」と最後のほうは一気に駆け上がった。
そして私は島を見渡して、思わず言った。
「木が・・・一本もない・・・・」
海辺よりも強い風が、島全体を遮られることなく吹き抜けていった。
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