驚きの目覚め
お腹は戻っていた。夕食もお母さんが食べやすいものを作ってくれて、
「お母さん、本当にありがとう」
「まあどうしたの、いつものことじゃない。お母さん連絡帳に書いてなかったかしら・・・・私もごめんね、糸」
「ううん」
これでフェア島に行けると思うと、うれしさでいっぱいだった。
お風呂に入って、準備ができて
「とにかく寒く感じるだろうから、体調がおかしいなと思ったら必ず言ってね、糸ちゃん」
「はい! 」
そしてベッドに入ると、いつもの様にすぐに眠ってしまった。
意識が徐々にはっきりしてくると、私は白熊の時の冬山のように、
強い風は感じるけれど、極端に寒いとは思えなかった。
それ以上に、目覚めと同時の経験は初めてだった。
私がなった動物は何かを食べている。味を感じる、知っている味だ。それも美味しいとは思っても私がなかなか食べられないもの・・・・
「え!! 私海藻食べている?? 」
口の中は塩味がして、そしてロープのようにワカメなのか昆布なのか、長いままの海藻がそのまま続いているのが見える。
私は口の中のものを吐き出すと、ばさっと海藻が地面に落ち、そこから飛び退いた。
「どうしたんだ、大好きだろう? 草よりも旨いって言ってたじゃないか? 」
横にいたのはふわふわの、カールした毛の羊だった。十匹、それ以上いたかもしれない。みんなも海藻を食べている。目の前には海が、青い所は全く見えなくて、波も岸にバシャバシャと打ち付け、しぶきが私にもかかっている。みんなも大きな波が来ると、さっと避けて、また黙々と海藻を食べる事を繰り返していた。
羊の仲間達の言葉からすると、私の言ったことも、やったことも、元々のこの羊とは正反対のようだ。
何かおかしくない事を言わなければいけないと思ったので
「でも、やっぱり海は気持ちいい」と言ってみると
「え? お前ワカメは好きだけど、海で濡れるのは大嫌いと言っていたじゃないか、どうした、ちょっと変だぞ」
「え! そうかなあ、ハハハ」と私は、みんなからちょっと離れることにした。海辺は小さな石がたくさんあって、歩きにくい。でも私の毛の中で何かが動いているのはわかった。やっと羊の仲間と離れたので、
「ミミミ、ミミミ、大失敗しちゃった」
「仕方ないよ、そういうときもあるよ、糸ちゃん、きっと大丈夫。僕にとって羊くらい大きいと隠れやすいね、でももうちょっと群れと離れようか、僕の色が目立って大変」
島の方は崖になっていてパイのように地層が重なっていた。どんどんと石が岩になっていくので
「糸ちゃん、海に落ちないように気をつけてね」
「うん、蹄ってすごいね、全然岩場の所なのに痛くない。でもここくらいでいいかな」体が岩で半分以上隠れるところに来て、ミミミはやっと姿を現わした。
「わあすごい、何だかミミミが光って見える」
「そうかな? 海の色のせいかもしれない」
灰色の海に白い波しぶき、この岩場に当たる風の音も、ビュービューとすごく大きい。空も厚い雲に覆われて、まるで冬のようだけれどミミミが
「8月でもこれだけ寒いんだね・・・」
「8月、うらやましいくらい涼しいね、私は大丈夫よ。羊ってそういえばセーターを年中着ているようなものだよね、暖かい。ミミミ、私の中にいた方がいいんじゃない? 風で飛ばされそう」
「そうみたい、羊の糸ちゃんの中に潜っていた方が安全だろうね」
と言った途端、ミミミは海のほうを向き、耳をピクピクさせた。
私もその方向をながめると、高い波の間からチラチラと何かが見える。別の色のものだ。
「え! 何? 船? 木の小舟? 」
それが何艘も海に浮かんでいる。小舟に人もいっぱい乗って、こちらに向かっているようだ。
「あ!!! しまった!!! 百年間違えた!! しかも今日だ」
聞いたことのないような大きなミミミの声がした。
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