礼の優しさ


「ああ旅は今夜なのに・・・ミミミは私がおかしいことに気が付くかな・・・気が付くよね・・・私のことよく見てるもん・・・」


 給食を食べた後、私は何度もトイレに行った。お腹をこわしてしまっているのだ。

日本人の多くは、生まれながらに海藻類、海苔を分解できる微生物がお腹の中にいるらしい。でも私は何故か、その日の体調にもよるのだが、海藻類を食べると下痢を起こしやすい。

今までならサッカーの練習を休んだり、ひどいときは次の日学校を休んだりしたけれど、さすがに今日は自分の中で、遠足の前の日以上の出来事になっていた。


「ああ・・・フェア島が、フェアアイルセーターが・・・」

休み時間、トイレの前でがっくり落ち込んでいると


「糸、お前、大丈夫か? 前よりひどくなってないか? 」

「え! 」

 礼が声をかけてくれた。

「あ・・・ありがとう、礼」

「ワカメスープのこと先生に言わなかったのか? 連絡帳に書いてもらった方がいいぞ」

それからすたすたと行ってしまった。礼はぶっきらぼうだが、やさしいところもある。

「さすがチームの司令塔、他の人のことをよく見ているな」

と久しぶり感心した。

そのおかげか、学校に帰る頃には大分良くなって、今度は家に帰るとお母さんが慌てて

「糸! 今日ワカメスープだったでしょ? 大丈夫だった? 」

「お母さん! 大きな声で言わないで! 」

ミミミに聞こえるからと、心の中で付け加えた。

「え! 何故! お腹に響く? 」

「いや・・・そういうわけじゃ・・・・」

 結果、話しをそらすために、礼との会話のことを言うと

「まあ、礼君は・・・本当に小さい頃から糸には王子様みたいね」

「え!!! 王子様はあんなに愛想悪くはないよ! それにもう大丈夫」

ミミミに聞こえていないことを願うばかりだった。恐る恐る、三分の二はあきらめて部屋に戻ると

「あれ? 旅の前なのに珍しく外出中だ、良かった!! 聞こえていなくて」

いつもなら宿題が先なのだけれど、ちょっとだけベッドに横になっていると、そのまま少し眠ってしまった。


「糸ちゃん・・・お母さんが呼んでいるよ、夕食の時間」

耳元で小さな声がした。私が飛び起きると、ミミミは

「糸ちゃん、珍しいね、お昼寝? つかれているの? 」

「まあ、ちょっと暑かったからね、ミミミ急いで食べてくるね」

「ああ、糸ちゃん、僕夕食は外で済ませてきたから大丈夫だよ、ゆっくり食べてきて。本当に今日で大丈夫? 」

「もちろん!!! お願いね、ミミミ!!! 」

私は急いで階段を降りながら、とにかく食事中のお母さんの声がミミミに届かないように出来ないかなと思っていた。


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