File01 死神は妖精と出会う
File01-01
とある山奥。時刻はすでに夜の十二時を過ぎており、人のいないその場所は不気味な静けさに包まれていた。
そんな静寂に、足音が二つ混じる。
「おい、こんな場所に本当にあるのかよ」
「あるって! 絶対に高額で売れるはずだ!」
二人の男の声。懐中電灯と携帯端末を持って前を進む男に比べて後方の男の足取りは重い。
「売るって、どこに売るつもりだよ」
「どこにでも売れるって! 今ならオンラインでいくらでも違法売買なんてできる時代だろ?」
「武器とか麻薬とかならまだしも、お前が言ってるのって……」
後方の男が不安げに言えば前を歩いていた男が振り返ってにやりと笑った。
「ドールだよ、ドール!」
ドール。文字通り人の姿をした人形ではあるのだが、ここでいうドールは一般的な人形とは異なる。
――魔力を込めて魔術を施すことで自律して動く人と同じ大きさの人形。それが、魔術道具として存在するドールである。ドールの原動力は主に魔術が込められた鉱石である魔鉱石であり、その魔鉱石を基に魔法使いが作りだすことが主である。本来はドールは自分を作り出した魔法使いの命令に従うためだけの存在、なのだが。
「魔法使いが作りかけて放置したドールなら、誰のものにもなれるんだよ!」
「……いや、それは別の魔法使いが契約し直してって場合だけだろ。なんだっけ、ナントカドールって」
「ブランクドール! つまり、ここにはそのブランクドールが放置されてるんだよ!」
前方を歩いていた男が懐中電灯で照らした先には古い山小屋があった。それを見た後方の男が「マジかよ……」と小さく漏らす。前方の男は足取り軽く山小屋のそばに駆け寄り、ためらいもなく扉を開けた。
「おい?! ドールがいるんだろ?! なんか変な魔術とかかかってんじゃねえのか?!」
「大丈夫、大丈夫! ほら、この間買った魔術レーダーなんも反応してないから!」
懐中電灯と一緒に持っていた小型の端末を見せながら前方の男は後方の男に笑いかけつつ小屋の中に進んだ。そんな玩具みたいなモンが信用できるか、と思いながらも後方の男は恐る恐る扉をくぐって中に入る。
「……何もねえじゃん」
懐中電灯を持った男は部屋の中を手当たり次第に照らすが、目ぼしいものは何も見当たらない。
「クソ、ハズレかよ……」
と、悪態を吐いた時だった。
「うっ、うわぁ?!」
後方を歩いていた男が突然悲鳴を上げた。何事か、と男が懐中電灯を照らすと、
「……おい、マジか」
地面に尻もちついている男の前方には俯いて椅子に腰かける少女の姿。黒く長い髪を頭の高い位置で二つに結ったツインテール。懐中電灯に照らされている肌は白く、黒いカーディガンと白いフリルミニスカートを身にまとう姿は文字通り人形のようであった。
「やったぜ! これはアタリだな!」
「ほっ、本当にこれ……人形……、ど、ドールなんだよな……?」
尻もちをついていた男が立ち上がって恐る恐るドールに向かって手を伸ばしたが、それをもう一人の男が手首を掴んで制止した。
「おい! 余計に触るな!! 傷でも入ったら価値が落ちるぞ!」
「あっ、ああ……悪い。でも……こんな子供みたいな見た目なのに、本当に魔術なんて使えるのか?」
疑いを隠しきれない様子の男の言葉を聞いて、懐中電灯を持っていた男は改めて少女型ドールの姿を光で照らしながら見る。
「確かになあ……俺がオークションで見たドールはもうちょっとゴツいのが多かったな」
「そうだろ? こんな子供みたいな見た目なら、俺でも勝てるぞ?」
恐怖心が薄れたのか、男は少しばかりおどけて見せながら言う。それを聞いてもう一人もくくっ、と喉を鳴らして笑った。
「確かにな。でも、こいつは命令さえされればどんな魔術も使えるぜ?」
「それって、あの死神……リュウ・フジカズみたいな?」
その時、ドールの髪が小さく揺れた。しかし、男たちはそれに気づいた様子もなく会話を続けていた。
「さすがにそれは無理だろ。あいつは最強って言われてるんだぜ? こんなガキみたいなドールがそんな力使えねえよ」
「確かにな。でも、魔術使えばどんなことでも出来るだろ?」
「どんなことでも、って? 例えば?」
「そうだなー……ほら、すげえ爆発起こしたりとか。なんかでっけー建物乗っ取って、ここを爆発させたくなかったら金を出せー、とかそういうの」
「ああ、センターショップシティを占領して、ここを爆発させろーとか?」
「そうそう。明日の五時に爆発させるから金を用意しろ、とかさ」
へらへらと笑いながら男たちは空想を膨らませて語り合う。そんな、冗談みたいな話だったのだ。
「了解しました」
「……え?」
突然入り込んだ、少女のような声。男たちは声を合わせて、目を丸くさせる。それから視線を互いから、椅子に座っているドールに向ける。俯いているドールの頭が小さく揺れて、ゆっくりと顔を上げた。
そして、少女の目が開かれて鮮やかな赤色の瞳が露になる。
「センターショップシティを占領後、明日五時に爆発させます」
その宣言の後、少女の足元に黒い魔法陣が展開され、瞬く間に姿が消えた。
「……い、今のって、マジ……?」
男が頬に心地の悪い汗を垂らしながら絞り出すように言えば、もう一人の男は懐中電灯を手から落とした。
「や、ば」
地面に懐中電灯が叩きつけられる音がしたと同時に、男二人は悲鳴を上げながら小屋から飛び出ていった。
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