不安
冬のイベントが終わり、次に開催されるのは夏のイベントだ。
次の新刊はどんなストーリーにしようかと考えながら授業を受ける。
学業と同人活動の両立。決して簡単なことではないが、俺は帰宅部なのでまだ時間が自由に取れる方だと思う。
退屈な授業を受けながらふと、斜め前にいる女の子に目が行く。そしてその後ろ姿、ちらりと見える横顔を見て、思い出す。
――あの子だ。
冬のイベントに来てくれた、あの眩しい笑顔の女の子だった。
イベントの最中、見覚えがあるなと感じてもおかしくない。だって彼女はクラスメイトだったのだから。
それに気づいた瞬間、ドッと不安が押し寄せる。
あの同人誌を描いた八重が、俺だということに気がついていないだろうか。
もし、もしバレたら最悪だ。ただでさえ同人活動をしていることは友人にも秘密にしているのに、同人誌を描いて、しかもそれを女装して大勢が集まるイベントで売っている変態野郎だなんて言いふらされたら。
元から真剣に聞いていなかった先生の声が全く耳に入らなくなるほど、ただそのことが心配で仕方がなかった。
自身のファンがクラスメイトだという衝撃な事実に気づいてから、昼休みになった。
友人と机を囲み、持参した弁当を食べるが、正直気が気じゃなくて味がしない。
わいわいと話す友人の目を盗んでちらり、と視線を彼女に向ける。彼女は友人たちと歓談しながら昼食を取っていて、遠巻きに見ている様子では俺の話をしている感じはしない。おそらく俺が八重だと気づいていないのだろう。ほっと一安心して胸を撫で下ろす。
「ん? おい、
「あ、おう。えっと、お前の姉ちゃんがリンゴを……」
「そうそう、それでな……」
友人に声をかけられ頷く。
彼女が八重の正体に気づいていないのなら、問題ない。
すこしどきりとしたが、いつも通りの日常が流れていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます