第19話 浅羽さんと大久保君
放課後、しずかとしょかん談話室。
でも考えてみれば、しずかとしょかんに入れるのは僕と浅羽さんだけなのだから、ここで脚本を完成してしまえば良いだけなのだ。
どうせ、大久保君は陸上部期待のエースなんだから、部活で忙しくて、なかなか手伝えないに決まっている。
そういえば、今日は浅羽さん、遅いな。
宿題をしつつ浅羽さんを待って数十分が経った。
「遅くなっちゃってごめんね、宇宙君」
「浅羽さん、今日は何かあっ……」
僕は、驚いて言葉が出なくなっていた。
何でここに大久保君が⁉
「よっ、橘。ごめんな、ちょっと会議があって……」
大久保君が気さくに僕に話しかける。
「お、大久保君が何でここに?」
今まで一度も、ここで大久保君を見たことはなかった。
それに彼が本読んでるところなんて、ほとんど見たことないぞ。実は家では本を読んでいたり? まさかね、家でトレーニングしたり、休日はアウトドアな趣味に費やしていそうだ。
「何でって、一緒に劇の脚本を考えるためだろ。この中だったら好きなだけ時間を使えるしな」
確かに、しずかとしょかんは脚本作りには最適の場所ではあるけれども!
「真斗君は部活で多忙の日々だもんね。この中なら時間も気にせずに、じっくり脚本考えられるしね。……それにしても、真斗君がここに来るのも久しぶりだね」
ま、真斗君⁉
「ああ、受験の時以来だもんな。約一年半ぶりくらいかな」
「真斗君たら、高校に入ってから一度もここに来ないんだもん。忙しい中にこそ、静かに本を読む時間が大切なんだよ。もうちょっと本を読みなさい!」
「満月が本読み過ぎなんだよ。どうせ、毎日入り浸ってるんだろ? お前こそ、もうちょっと外に出ろ!」
み、満月だと⁉ しかも名前を呼び捨てって……。
「あの、二人はどのような関係で?」
僕は、今にも言い争いを始めようとしている二人の間に割って入った。
「幼馴染だけど」
「幼馴染だよ」
二人が口をそろえて言った。息ぴったりだ。
……幼馴染。
「って、ええええええぇぇぇぇぇぇ」
僕は叫んでいた。幼馴染なんて小説かアニメの存在だと思っていた。それと、さっきの会話だけで二人の関係性が嫌でも分かってしまう。
「そ、宇宙君、驚き過ぎ」
「そんなに驚くことか? ていうか、お前も叫んだりするんだな。もっと無愛想で表情に乏しい奴だと思ってた」
悪かったな、無愛想で。
「宇宙君は、本当はとても話しやすくて、いい人なんだよ」
浅羽さんにそう言われると少し照れてしまう。
「へえ、そうなのか。お前も人見知りなの?」
「いえ、そういうのではないです」
実際は、どうでもいい奴と話すのが嫌なだけであった。
「だったら、もっといろんな奴に話しかけてみればいいのに。お前、いつも一人で本読んでるからさ、なんとなく話しかけづらいんだよな。せっかくの話しやすくて、いい人が勿体ないぞ」
何で、大久保君にどうこう言われなきゃならないんだよ!
「……そうですね。努力します」
絶対にしないけど。
「おう、がんばれ」
頑張らないけど。
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