第20話 大久保君はモテる。

「宇宙君、敬語禁止だよ。真斗君とも、これから仲良くなっていくんだから、自分から壁を作っちゃダメだよ」

 別に仲良くなりたくはないのだけど。

「確かに、敬語使われると壁を感じるな。何かよそよそしい感じだし。……じゃあ、俺も今から、橘のこと宇宙って呼ぶわ。俺のことも真斗でいいから。いいよな、宇宙?」

 僕の返事を待たず、早速名前呼びの大久保君。

「いいよ。……でも、僕はいつも通り呼ぶから。呼び方をすぐ変えるのは無理なんだ」

 別に大久保君とそんなに親しい仲になりたくないし。

「何だよ、つれねえなあ。まあ、呼びたいようによんでくれればいいや」

 そんなことよりも聞いておかなければならないことが。

「でも二人は学校では名字で呼び合ってたよね?」

「あ~、それはね……、真斗君がモテるからだよ。私だけが名前で呼んでもらうなんて、他の女の子達からひがまれちゃうでしょ」

「ああ、そういうことだったんだ」

 納得。何か変な噂でも立てられたら堪らない。女子の嫉妬は怖そうだし。

「それにしても、俺のどこがそんなにいいんだ? 自分じゃさっぱり分からん」

「うわ~、それ嫌味だよ。ねえ、宇宙君?」

「完全に嫌味にしか聞こえないよ」

 顔良し頭良し性格良しの三拍子揃って、モテない方がおかしい。

「嫌味じゃねえよ。それに、自分がモテるって自覚があったらナルシストだろ」

「確かにそうだけどさ~。真斗君、鏡の中の自分の顔をジーっと見てみるといいよ。どこかの男性アイドルグループに入っても違和感を全く感じさせない顔が映っているから」

 これでダンスと歌が出来たら完璧だ。大久保君なら普通にそつなくこなせてしまいそうだが。

「なあ、宇宙。そんなに俺の顔いいと思うか?」

「うん、僕達の学校では断トツで君が一番だよ。おまけに、陸上部の期待のエースだし」

 彼を褒めたくなんてないけど、非の打ち所がなかった。

「ああ、もう! もうこの話は終わり! 早く脚本考えるぞ」

 この後も大久保君のモテ話を続けられると、僕が悲しくなるだけであった。

「そうだね。……で、浅羽さん、なんかアイデアとかある?」

 ここは文芸部の浅羽さんが中心となって考えた方が良いだろう。

「う~ん、まずは方向性を決めないとね。これはクラスの皆の意見とか聞いた方がいいよね」

「そうだな。じゃあ、俺が明日、皆にアンケート取ってくるわ」

「お願いね、真斗君。……じゃあ、今日はもうやることないね」

「そうだね。じゃあ、僕はもう帰るよ」

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