第13話 浅羽さんの自己紹介

「うーん、何でもって言われちゃうと、そうすぐには思いつかないもんだね。……うーん、じゃあ、軽く自己紹介から始めようかな。四月の頃にもやったけど、あれは一般向け。橘君用の自己紹介を今からするね」

「あ、はい、どうぞ」

「名前は、さすがに、覚えてるよね、浅羽満月」

「勿論」

「職業は、しずかとしょかんの館長をしています」

「職業なんですか、それ」

「うん、まあ一応は。お給料は貰えないけど。……それから、部活は文芸部に所属しています。本を読むのも物語を書くのも大好き。あとは、趣味は勿論、読書。あっ、あとお散歩も好き。書店巡りとか雑貨屋さん巡りとか。音楽もたまに聴くかな。それから、得意な教科は国語、現文も古典もどっちも好き。苦手な教科は数学かなあ。う~んと、好きな食べ物はシチューとスイーツ全般。最近は駅前のカフェのパンケーキがお気に入り。クリームが山盛りで、イチゴが乗ってて美味しいの! 好きな動物は猫。近所に可愛い野良猫がいてね、最近やっと撫でさせてくれるようになったんだよ。あっ、そうそう誕生日は九月二十八日で天秤座。血液型はO型です。えっと、それからそれから……、あっ、ごめんね。私ばっかり喋っちゃって」

「あっ、いえ、お構いなく」

「とりあえず、私はこの辺で。次は橘君について教えて」

「はい、ええっと……、名前は橘宇宙。宇宙と書いてソラと読みます」

「いい名前だよね!」

「え、いい名前?」

 いい名前と素直に言ってもらえたのは初めてだった。白鳥さんはノーコメント、鷲羽先輩は「粋な名前」という謎な評価で、言葉を濁していた。あとは大抵「変な名前」と言われ、からかわれた。

「うん! ソラっていい響きだよ! よく小説とかで宇宙の横にソラってルビが振ってあるでしょ。きっとそこから取ったんじゃないかな。ねえねえ、橘君の名前を付けたのはお父さん、お母さんどっちなの? それともご両親で相談して決めたのかなあ。私の名前なんて単純だよ? 綺麗な満月の日に生まれたから満月。あと、お母さんの好きな漫画の主人公が満月って名前だったんだって。ねえ、橘君のお家はどうなの?」 

 確かに、ソラはいい響きだとは思うが、だからってこの漢字はないだろう。

「この名前を付けたのは父です。宇宙の様に広い心を持って、人々を包み込む愛情を持った子に育って欲しいっていうのが、僕の名前の由来だそうです。それで、宇宙飛行士にでもなってくれれば、万々歳ってことでしょうね」

 長年言われ続けて、僕の中にも浸透してしまった定型文を口に出す。

「素敵。すっごく素敵! お父さんの愛が伝わってくる」

「……へ? 愛?」

 きょとんとする僕に、浅羽さんは更に質問を投げかける。

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