第12話 人と話すこと
一時間くらいが経った頃だった。
「橘君」
突然、小声で名前を呼ばれて、肩を叩かれた。
「……え、はい。……あ、浅羽さん」
「ちょっと時間いい?」
「あ、はい、大丈夫です」
僕は読みかけのページに栞を挟み、浅羽さんの話を聞く。
「ここじゃなくて談話室で話さない?」
「あ、それもそうですね」
僕に話って何だろう。
少し胸がドキドキした。
浅羽さんに続いて談話室に入り、テーブルを挟んで向かい合う。昨日と同じ体勢だ。
「どう? しずかとしょかん、気に入ってくれた?」
「はい! それは勿論!」
「有難う」
「……それで、僕に何か用ですか?」
「あ、うん、別に何か特別な用があるって訳じゃないんだけど」
じゃあ何だろう……。
「うん、ちょっと橘君と話してみたくて……」
僕は教室にいる時はよく本を読んでおり、誰かに話しかけられることは少ない。一人で黙々と本を読んでいるやつには話しかけ辛い。だから、僕は一人でいることが多い。一人でいることはそこまで苦ではなかった。しかし、一人でいることが好き、がイコール人と話すのが嫌いということにはならない。僕だって何か話しかけられたら普通に答えられるし、中学の頃はよく喋る二人に挟まれていたものだから、僕自身も何か喋らざるを得なかった。あの二人との会話は楽しかったし、僕の人生の中で一番喋った時期だと自信を持って言える。
「えっ、あっ、はいっ! ……え、えっと、な、何でもどうぞ」
しかし、中学時代に磨いた会話スキルを上手く発揮出来ない。いや、浅羽さんが本を好きってことは分かるけど、どう話していいかなんて分からない。白鳥さんとは普通に話せたのに、いざ他の女子といきなり何か話せと言われたら困る。
だからの、相手への丸投げである。
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