第8話 恋⁉

しずかとしょかんを出た後も、浅羽さんのあの笑顔が頭にしっかりと焼き付いて離れなかった。

 いつもは心の中で文句を言っている電車内でのおしゃべりも、全く気にならなかった。

 電車から降り、家に向かって歩いている時も、何だか呆けたように、浅羽さんのことばかり考えていた。

 家に着き、玄関のドアを開けると、香ばしい匂いとともに、「おっかえり~」という妙にテンションの高い声が響いた。

「今日のご飯はシチューだよん」

 父が何かを言っているが、僕の耳には届かなかった。

「あれ? どうしちゃったの、宇宙?」

 父が僕の顔を覗き込む。

「ん? 宇宙、顔が真っ赤だけど……」

 すると、父は独り合点するように言った。

「あっ、そうかぁ。宇宙も、そんなお年頃かぁ」

 嬉しそうに顔をほころばせる父。

「恋っていいねぇ。青春だねぇ」

 コイ? 鯉? ……恋⁉

 そんなリア充の代名詞みたいなこと、ある筈がない。

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