第4話 歴史の授業

うるさい、うるさい、五月蠅い。

「えっ、それ超やべぇじゃん」

「でしょー、で、私の兄貴、家出てちゃった訳」

「でも、家出とか中々出来ることじゃないわ、やっぱ真美の兄ちゃんヤンキーだわ」

「今度のはけっこうガチのっぽくてさ~」

 後ろの席の奴らが五月蝿い。

 日本史の授業は、僕にとっての至福の時間である。それを関係の無い無駄話に邪魔されるなんて、いくら温厚な僕でもブチ切れたいくらいだが、そんなことをするキャラでもないので、こうして一人イライラしているしかない。

 日本史の坂本先生。頭の薄くなった初老の男性教師。歴史の裏話もちょくちょく挟んでくれ、僕としては大好きな先生なのだが、そののんびりとした口調は多くの生徒の眠気を誘うため、彼の授業をちゃんと聞いている生徒はごく少数である。大抵、寝ているか、内職をしているか、小声で無駄話をしているかのどれかだ。先生も面倒なのか、生徒に注意することは無い。

 頑張れ、坂本先生。あなたの歴史の授業は面白いんだから、もっと沢山の生徒に聞いてもらいたい。ほら、まずは後ろの喋っている二人をビシッと注意してやるんだ。

 ノートを取りながら、心の中で密かにエールを送り続けるが、それが届いた試しは無い。

 ―――――それにしても、本当に五月蠅い。


「おーい、皆、静かにしろよ~。今、授業中だぞ。特に、大西と川上。大西の兄貴の話も気になるかもしれないが、それは休憩時間に話してくれ」

大久保真斗おおくぼ まさと

学級委員長の一言がざわついた教室に響く。

 いつも、彼である。

 学級委員長としての使命感か、彼の性格からかは分からないが、周りが五月蠅くなってくると、いつも彼が注意してくれる。お陰で教室には、坂本先生の声とチョークで字を書く音が聞こえるのみとなった。

 このクラスの学級委員長にして、県代表にもなった陸上部のエース、そして、顔良し性格良し頭良しと三拍子揃った、少女漫画にでも出てきそうなモテ男。それが、大久保君である。

 正に嫉妬するくらい、リア充!

 と、顔は平凡、成績は中の下、性格はどちらかというと暗い、帰宅部で趣味は仏像鑑賞の僕は、卑屈にもそう思ってしまうのだ。

 

 授業が終わり、本でも読むかと思った時、ふと視線を感じた。

 浅羽満月あさば みつき

 たしか、そんな名前だった。

 クラスでも、殆ど目立つことのない人物である。

 いつも静かに本を読んでいて、誰かと仲良く喋っているところを全く見た事がない。

 何か神秘的な魅力を持った女子。

 そんな印象を持っていた。

 僕に何か用でもあるのか?

 目と目が一瞬合ったが、次に瞬きをした後には、もう彼女の視線は本に注がれていた。


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