第2章 みかくら高校のおもしれー女たち
伝説になってた①
前回の話で主人公の名前を間違えていたので修正しました。(そんなことある?)
誤解させてしまい申し訳ありません。
* * *
前回までのあらすじ!
私、
そんな私のもとに突然舞い込んだVtuberデビューの話。
それは、事故を起こし入院生活となってしまった友人の
でも、配信はおろかVtuberのこともよく知らないのにちゃんと役目を全うすることができるのか?
エリート集団の中に放り込まれるし、初めての配信には寝坊しちゃうし、一体これからどうなっちゃうの〜〜〜〜?
* * *
「すみませんでしたああああ!」
私はぺこぺこと音が聞こえるくらい謝り倒した。
今日は青崎社長に呼ばれて、以前面接をした『あおプロ』の非公開事務所に来ている。
社長が私を呼んだ意図は、初配信に寝坊したことを叱るためではないだろう。
マネージャーの
でも流石に社長の顔を見たらいたたまれなくなって、謝ってしまった。
社長としても、きっと、もっとまともなデビュー配信を期待していたはず。
たとえ怒っていないとはいえ、ミスを謝るのは社会人としての最低限の礼節である。
でも、社長の反応は私の予想を大きく上回るものだった。
「あ〜、そうだそのことにも触れておかないとね! 高谷さんの初配信すっごくよかったよ!」
「そうですよね! 本当に申し訳ない限りで……へ?」
私は社長の言葉に疑念を抱き、顔を上げた。
そこには満面の笑みをたたえた社長がいた。
「いやあ、まさか現地で配信しちゃうなんてね! 普通なら配信時間を遅らせてもいいのに敢えてそれをしない潔さ。私は君を甘く見ていたようだよ。こんな気分はいつぶりかなあ……1期生のデビュー配信以来かもしれない。いいものを見させてもらったよ」
「は、はあ……?」
何だかよくわからないけれど、褒められている……?
「それで、今後の話なんだけどね」
「あ、はい!」
「君がうちでデビューするにあたっての公約を覚えているかな?」
問われて、私は逡巡した。
これは難しく考えなくてもいいだろう。
なぜ私がVtuberデビューすることになったのか。
それは、奈央が退院するまでの間、彼女の居場所を作っておくためにほかならない。
つまり、青崎社長が聞きたいことは……。
「活動期限のことですよね?」
「うん、そうだね。君も知っての通り、今の君はあおプロの正式メンバーではない。あくまでも白水さんの穴を埋める役割として君はここにいるわけだけど、それは理解してるね?」
「はい、もちろんです」
社長の話に異論はない。
社長としては念のため確認しておかなければならない事項なのだろう。
正式メンバーではない上に、今後も正式デビューする予定はないのだから事務所内での私の立ち位置はなかなか微妙なところだと思う。
なんか、フリーランス時代のことを思い出すなあ。
先輩方は優しいからそのことについて何か言ってきたりはしなかったけれど、どうせだったら正式デビューした同期に時間を割きたいはずだ。
せっかく配信のイロハを教えても、すぐにいなくなってしまうんだから。
これは当たり前のこと。だから私はせめて迷惑をかけないように、期限がくるまでは慎ましく活動していけたらいいと思っている。
「白水は一月もあれば退院できそうと言っていましたし、それまでは責任を持って頑張らさせていただくつもりです」
「うんうん」
社長は満足気に頷いた。
返答は間違っていなかったようだ。
「理解してくれてるみたいだし、この話はここまで。これからは今後の話です」
「はい!」
「とりあえず、配信に関しては好きにしてもらって構わないからね。前に決めたノルマを守ってくれさえすれば」
「最低週2でしたよね?」
「うん! 時間とかは完全お任せで。配信ノルマは皆にあるから」
「分かりました」
「えっとね〜、話しておきたいことが三つあるんだけど……とりあえずお菓子でも食べながらゆっくり話そうか」
「あ、はい! いただきます!」
社長が給湯室に入っていったので、私は慌ててその後をついていく。
「ああ、いいよいいよ。座ってて」
「お気遣いありがとうございます」
と言いつつも、私は座らずお茶の準備を手伝った。
流石に社長にお茶を用意してもらうわけにはいかないからね。
ずっとここで働くわけではないとはいえ、雇ってもらっている立場なのだから誠意はあったほうがいい。
「この最中結構いけるでしょ」
「すごい美味しいです! お餅が入ってるんですね」
「そうそう。ななおなおが京都旅行のお土産に買ってきてくれたんだよ」
「ななおなおさん?」
「知らない? 3期生の子」
「ごめんなさい、勉強不足で……」
「ああ、いいよいいよ。急なデビューだったもんね。仕方ない仕方ない。メンバーのことはこれから知っていけばいいよ」
「はい!」
しまった、ちゃんと把握しておくべきだったな……。
同じ事務所の先輩のことを知らないなんて、失礼にもほどがある。
デビューのことや配信のことで頭がいっぱいで、そこまで頭が回らなかった。
「それで、一つ目の話になるんだけど。まずはコラボの話ね」
「コラボ」
「そう。まあ大抵のことはマネージャーさんが説明してくれると思うんだけど、とりあえず先輩とのコラボはもうちょっと待ってね」
「しばらくはソロ配信に専念するということでしょうか」
「ううん、コラボしてもいいんだけどうちではデビューから一ヶ月はとりあえず自分の力で頑張るっていう方向性をとらせてもらってるんだ。同期の子たちとは好きにしてもらっていいよ。仲良しこよしでいくも、バチバチでいくも君たち次第。1期生なんかは、デビューしてからしばらくは同期コラボばっかりだったしね」
1期生デビュー配信のことを思い出した。
「仲が良いんですね」
「仲はいいよ〜。すこるとつまりなんかは同居してる時期もあったくらいだし」
「え! そんなに仲良しなんですか」
「あんまり仲がいいもんだから、二人付き合ってるんじゃないかと邪推してたこともある」
「それはまあ……女性同士ですし」
「いや、わかんないよ。この業界意外とそっち系の人多いからさ」
「え、そうなんですか!?」
衝撃の事実である。
「話が逸れたね。まあ先輩がしてたのに後輩がだめっていうのもおかしな話だし、そこは任せる。ただ、君は一ヶ月後にはここにはいないかもしれないんだよね」
「そうですね……」
その可能性は高いだろう。
となると、先輩コラボが解禁されると同時に私の活動が終了してしまうことになる。
そう考えると、無性に寂しくなった。
「これも経験だし、高谷さんも先輩とコラボしたいでしょ?」
「させていただけるならぜひ……」
「だから特別に高谷さんは2週間でいいよ。2週間で先輩コラボ解禁!」
「えっ、いいんですか?」
「いいんです!」
でも、他の同期は?
私だけそんな優遇されて、
「同期の子達も一緒だから安心してね」
「あ、そうなんですね」
「高谷さんだけずるいってなっちゃうもんね」
「そうかもしれませんね。ご配慮ありがとうございます!」
「いいのいいの。じゃあ二つ目ね。理解してもらってるとは思うけど、高谷さんは事務所所属のライバーになるから、その名に恥じない行動を心がけてね。なんだかんだこれに尽きるから」
「心に刻んでおきます!」
炎上なんて絶対したくないからね。
「心に刻んでもらいつつ、最後! 歓迎会のことです。うちでは事務所が歓迎会を開くことはありません。もちろん禁止ってことじゃなくて、するもしないも所属ライバーに一任してるの。もし興味があったら、先輩が企画してくれると思うからそこは上手くやってね。ちなみに2期生と3期生は1期生主催でしたんだけど、だからってしなくちゃいけないわけじゃないから」
「先輩方が開いてくださるんですね」
「そうそう。私専学に通ってたんだけど、学校主催の新入生歓迎会が本当に嫌で。結局行ったんだけど、先輩とちょっとバチバチにやり合って停学くらっちゃって。だから自分が会社を作るなら絶対歓迎会の強制なんかしないって思ったんだよね」
社長、昔やんちゃだったタイプか……。
そんな過去があったなんて信じられないくらい綺麗でしっかりした人なのに。
社長の意外な過去に驚きつつ、私はお茶菓子を全て胃に収めた。
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