代理でも推してくれますか?④
これにて1章は閉幕です。ストーリー本格始動の2章は近日公開します。
※前回の配信部分を少しだけ書き直しました。大きくは変えてませんがよければご覧くださいませ。
※陽南のデビュー配信日を「日曜日」から「土曜日」に変更しました。そのため展開の辻褄が合わなくなっている可能性があります。申し訳ありません。
初配信を終えた次の日。私はベッドで目覚めると、頭を抱えて悶絶した。
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
電車を寝過ごして配信に間に合わないからって、野外配信を決行してしまうなんて。
とにかくこの枠を落としてはいけない。そう思って何が何でも間に合わせようとした結果、あんなことになってしまった。
今思えば、普通に時間を遅らせてもらった方がよかったんだろうな。
でも、今更気づいたところでもう遅いわけで。
昨日の配信を終えた直後、私は誰に連絡を入れたらいいのか分からなくてまずはマネージャーの柚原さんに謝罪のメッセージを送った。
正直すごい怒られると思ってビクビクしていたのだけれど、ちょっと注意されただけで終わって肩透かししたのを覚えている。
それから、社長に連絡をしたほうがいいかと言ったところ、その必要はないと言ってもらえたのも心が軽くなった。
正直、それが一番怖かったから。青崎社長は美人だしいい人だけれど、だからこそ今回のことで迷惑をかけてしまったのが申し訳なくて。
今度会ったらちゃんと謝らないとな……。
先輩方も私のことを心配してくれていた。
配信を終えて少し経ってから、まずは洲古すこる先輩が「配信よかったよ」と送ってくださって。
その時は本当に救われたなあ。先輩のありがたみを思い知ったよね。
それはそれとして、これからどうしよう。
次の配信で何するのかは今のところ何も考えていない。
一応、奈央が運営さんにかけあってくれたおかげで、配信ノルマを減らしてもらえはしたものの、配信とかしたことないので何をすればいいのか悩む。
みかくら高校の先輩方はあんまりゲーム実況特化という感じではなく、どちらかというとバラエティ番組っぽい配信や動画が多かった。
それなら、私もそれに倣ってゲーム実況は控えめにしたほうがいいのだろうか。
難しい……。
こういう時、相談できる人が……いた!
「それでなんだけど、私って何すればいいと思う?」
『うーん……』
私はお昼頃、奈央に電話してアドバイスを請うていた。
奈央はいずれみかくら高校からデビューするのだから、私にどんな配信が合っているかも分かるはず。
少なくとも、一人で悩んでいるよりかは有益な時間になるだろう。
先輩や同期に相談するのは、申し訳なさが勝っちゃうんだよね。絶対忙しいだろうし。
『自分のやりたいことをすればいいと思う』
「やりたいことか……ほら、私って配信とかしたことないからさ。どんな風にしたらいいのかわからなくて」
『それなら、ゲーム実況とかから始めてみたら?』
「そうなるよねー。でもみかくら高校でゲーム実況って浮かないかな」
『大丈夫だよ。陽南は配信初心者なんだし、先輩達みたいな奇抜なことはしなくていいよ。ゲーム実況のやり方とか、運営さんか先輩に教えてもらえると思うから』
「うん、それはありがたい」
配信初心者である私を事務所からデビューさせるにあたって、色々とスケジュールの調整があったらしい。
私をデビューさせるために、色んな人が動いてくれたと聞いている。
一人一人の名前は分からないけれど、自分のために貴重な時間を使っていただいたのだから感謝しかない。
そして、調整の結果、配信のいろはを学ばさせていただけることになったのだ。
詳細な日程や講師様はまだ決まっていないけれど、早いうちがいいだろうということで近いうちに連絡をもらえることになっている。
その時に学べるのだから大人しく待ってろって思うかもしれないけれど、それまで配信しないわけにもいかないし、全くの手探りでスタートするよりもこうして有識者にアドバイスをもらえた方が安心するというもの。
『無難で行くならゲーム実況。もしそれが不安なら、雑談とかは?』
「雑談かあ。何を話せばいいのか」
『なんでもいいのよ。ただ、テーマはあった方がいいかも』
「テーマねえ」
『無理やりデビューさせておいてこんなこと陽南に言うのもあれだけど、あんまり考えすぎるのもよくないよ。こういうことしたら面白いかなとか、こういうことしてみたいとか、そんなものでいいと思う。メタいこと言うと、みかくら高校所属ってだけで観てくれる人は沢山……本当に沢山いるから』
「そんなもんかな」
『うん。だから自分の直感を信じてほしい』
奈央の言葉には説得力があった。
確かに奈央の言うとおり、考えすぎていたのかもしれない。
もう少し柔軟な発想で取り組んでもいいのかな。
「ありがとう。なんか胸のしこりが取れた気がする」
『それならよかった。あとそろそろ昼食の時間だから切るね、ごめん』
「わかった。私のために時間作ってくれてありがとう」
『全然。何かあったらまた連絡してね。あ、それと……』
「え?」
『昨日の初配信観たよ。すごくよかった』
「あ、ああ……ありがとう。私的には忘れたい記憶なんだけど」
『そう? 反響すごいよ。Twitter見てないの?』
「怖くて見れてない」
『それなら見たほうがいい。絶対見なよ。視聴者さんの反応ちゃんとチェックして』
「うう……わかった」
そう奈央に釘を刺されて、通話を終了した。
Twitterかあ、見たくないなあ。
昨日の初配信を終えてから今日に至るまで、Twitterは見ていない。
でもずっとこのままってわけにもいかないよね……。
私はスマホに手を伸ばして、友ちゃんのTwitterアカウントにログインした。
すると、物凄い数の通知が届いていた。
それを見ただけで辟易としたのだけれど、意を決して確認してみた。
するとそこには私に対する様々な反応が書かれていた。
「初配信おつかれさまでした」「これから頑張ってください!応援してます!」「友ちゃん、やはりみかくら高校の女」「初配信から伝説だったw次の配信も楽しみだ!」
全てに目を通せたわけではないけれど、なんと目に入ったリプライの大半……いや全てが好意的な内容だったのだ。
あんなボロボロの配信だったのに?
私は頭の上に疑問符を浮かばせたままTwitterを閉じ……ようとしたところで、何か呟いた方がいいかなと考えた。
同期のTwitterを見ると、配信後に、視聴者に対するお礼のツイートをしていた。
同期の中で初配信が終わってもまだ何も呟いていないのは私だけだ。
私のアカウントはデビュー配信直前の波紋を呼んだあの呟き以降更新されていない。
何を呟こうか数分考えて、ツイートを入力した。
『初配信ありがとうございました。体調を心配してくださる方がいましたが割と頑丈な女なので余裕のよっちゃんです。お風呂にも三十分浸かりました。皆さんは何分派ですか?』
……変なことは言ってないよね?
考えると呟けなくなりそうだったので、私はえいやとツイートを送信してTwitterを閉じた。
とりあえず今日は配信するつもりはないし、今後の展望を考えつつゆっくり過ごそうかな。
しかしこのあと、衝撃的な事実を柚原さんを通して知ることになる。
『高谷さん、大変です。友ちゃんが大人気です!』
その日の夕方頃に柚原さんから電話がきて、興奮気味でこんなことを言われた。
「そ、そうなんですか?」
柚原さんは息を落ち着けて、ゆっくりと話しだした。
『思わず電話をかけてしまいすみません。でも本当に凄いんです! Twitterはご覧になりましたか?』
「ええ、少しは」
『少し!? ちゃんと見てください! 反響凄いですよ! 4期生の中で誰よりも目立ってます!』
「え? そんなはずは……」
『知らないんですか? 昨日の配信、トレンドになってるんですよ!』
「へー、トレンドに……え、ええ!?」
『本当に知らないんですね……「友ちゃん」「現地配信」がトレンド入りしてます。一部読み上げますね。「みかくら高校からデビューした友ちゃんだけど代理にはもったいない人材だと思う」「友ちゃん正式デビューさせてくれ〜」「元々デビューする予定だった子と一緒にデビューってわけにはいかないんか?」それから……』
「も、もういいです。それメモってたんですか?」
『はい。マネージャーなので』
やりすぎでは……?
「あの、もしかして……期待されてるってことですか?」
『そうです!! いやあ、みんなびっくりですよ。まさかここまで反響があるなんて……いや、別に期待してなかったわけじゃないですよ? ただ、想定していたよりも遥かに多くの反応をいただけたので!』
そ、そんなに!?
いや、注目してもらえるのは嬉しいんだけど悪目立ちしてない……?
私は最低限応援してもらえればいいと思ってるだけで、そんなに期待されても……困る!!
『正直、代理デビューなんてはじめてのことだったのでどうなるのかなって思ってたんですけど、これなら大丈夫ですね! 早速ですけど、次の配信何しますか? 注目してもらえてるうちに次の一手を打ったほうがいいと思うんですよね。こますさんとかくりよさんも色々考えてらっしゃるみたいですし。今配信したら同時接続1万人はいきますよ! 高谷さん聞いてます?』
「……ほとぼりが冷めるまで配信しないとかだめですかね?」
『だめです』
即答された。
突然、本当に突然決まった私のVtuber計画。
奈央の代わりとして、配信が成り立つくらい応援してもらえればいいと思っていた。ひっそり活動できればいいと思っていた。
なのに、そんな私の気持ちとは裏腹に視聴者は期待を募らせているみたいで……。
そんなに期待されても、私からは私以上のものなんか出ない。
早く熱が冷めてほしい。私は切にそう願ったが、その願いは虚しくも砕け散ることとなるのだった。
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