代理でも推してくれますか?③〈配信パート〉
1章も佳境です。沢山の応援ありがとうございました。
あと、少し長くなりました。分けるの難しいのでこのまま載せます。
お時間のある時にゆっくり読んでくださいませ。
夜風が肌を刺す空の下、私のデビュー配信が始まる。
ちなみに、視聴者数は考えないことにした。
なぜなら、待機画面の時点で五桁の数字が目に入っていたからだ。
それだけの人数にこれから私の痴態を見られると思うと、死んでしまいたくなる気持ちに駆られる。
「はいどうもー、こんな風通しのいい場所から失礼します! みかくら高校4期生、配信ができない愛瀬七綺の代わりに馳せ参じました、友ちゃんです!」
コメント
:キチャーーーー!!!
:始まったかw
:初手現地配信するVtuberがいると聞いて
:実写!?
:電車大丈夫でした?
:そのお面どこで買ったんやw
最初の挨拶をすると、コメント欄が爆速で流れていった。
皆、私のこの状況を楽しんでくれているみたいだ。
それだけで救われる。
とにかく、出オチで終わらないように視聴者を惹き付けないと!
「えー、コメントでもちらほら心配してくださってる方がいますが、そうです! デビュー当日なのに電車を寝過ごしてしまって、ママとパパが用意してくださったバーチャルの体をお借りする時間がありませんでした! なので魂の姿で皆様の前に現れる運びと相なったこと、この場を借りて陳謝いたします! ごめんなさい!」
コメント
:魂の解釈が分かれそうだな
:潔いなー
:まあしゃーない
:先輩もびっくりしてたよw
:4期生の隠し玉ってコトォ!?
:さっきの二人もすごかったが、その上をいく逸材やな
「ちなみにこのお面に見えるものは世を忍ぶ仮の姿なので、実はお面じゃないんですねー」
コメント
:へーそうなんだ!(すっとぼけ)
:言い訳が苦しいぞー
:世を忍ぶ仮の姿怪しすぎるだろ
:おまわりさんこの人です
この後どうすればいい?
普通に自己紹介しようと思っていたけれど、せっかく盛り上がってくれてるんだしもうちょっとネタに振り切ってもいいかもしれない。
そこで私は、実写であることを活かしたアピール方法を実践することにした。
「スゥ~、いやあなんかさむっ……寒いなあ。体あっためたいなあ」
コメント
:唐突だな
:魂に寒いとかあるのか
:まだまだ冷えるねー
:風邪引くぞ
:そりゃそんなところにずっといたらねw
:大丈夫?コーンスープ飲む?
私は知っている。こういう時、動揺を悟られてはいけないと。
視聴者にはあくまでも余裕のある私を見せるのだ。
自分が動揺していると、観てくれている人もこの人大丈夫かとなるし、推したいとも思わないだろう。
だから私は敢えて余裕があることをアピールするために、落ち着いて上着を脱ぎ始めた。
コメント
:おいやめろ!マジで通報されるぞ!
:脱衣配信きちゃ!
:誰か止めてー!
:寒いんじゃなかったのか?
:これ矛盾脱衣じゃね?
何やらコメント欄が慌てている。もしかして、脱衣配信すると思われているのか。
もう少しばっと脱げばよかったのかもしれないけれど、余裕をアピールするためにゆっくり脱いだせいでなんかいかがわしい配信みたいになってしまったのは自覚がある。
ただ、いくら気が動転しているからといって、流石にそんなハイリスクローリターンなことはしない。
古来から言語は人のコミュニケーションツールとして発展したけれど、何も人と人を繋げるのは言語ばかりではない。
人には、自らを表現する力がある。私はその可能性にかけさせてもらおうと思う。
それは――ダンスだ!!
「ヘイ! ミュージックスタート!」
コメント
:何言ってんだこの人
:いや待て、友ちゃんには聴こえているのかもしれない
:誰か助けてやれよ...おもろいけど
:俺には聴こえるぞ。お前ら聞こえないってま?
:きっと俺達みたいな心の汚れたやつらには聞こえない音なんだよ。知らんけど
「ちょっと寒いんで挨拶代わりに踊ります!」
コメント
:踊れるんか?
:挨拶代わりにしては激しいなーw
:暗いから足元気をつけなよー
「えー、みかくら高校4期生、友ちゃん、28歳! これが今の私ができる全てです!」
コメント
:ちょまww年齢バレww
:28歳の高校生...(白目)
:年齢バレしたの過去最速じゃね?w自爆したがw
:年近いなw
年齢を言うと盛り上がるというのは本当だったみたいだ。
誰かに聞いたわけではないけれど、YouTubeを見ていたらたまたまVtuberが年齢バレした切り抜きが目に入ってそれがかなり伸びていたから、ネタとしてどこかで挟み込もうと思っていたのだ。
私の見当違いで、コメント欄がぽかんとならなくてよかった。
ノリのいい視聴者さんに感謝!
私はコメント欄の流れが失速しないうちに立ち上がり、あるアニソンの前奏を口ずさんだ。
「タラタラッタ〜、タラタラッタ〜、タラタラッタ〜タ〜」
決して歌が上手いわけではないけれど、それは視聴者に伝わったらしく……。
コメント
:ハ◯晴レだー!
:ハ◯晴レ踊んの?
:鋼のメンタルすぎるw
:BGM(生声)
:盛り上がって参りました!
:なついなw
コメントの盛り上がりは上々。
私は寒さを吹き飛ばす勢いで、専門学校時代に学祭の出し物で踊ったダンスを踊り始めた。
クラスの大半が飲食系でよくね? となっている中、ダンスを押し通してくれた池澤さんありがとう!
今、あなたの頑張りが役に立ってるよ!
しかし――。
コメント
:なんかの儀式?
:なんか思ってたのと違うw
:体がついていってないな
:ていうかうろ覚え感すごい
:なぜ踊ろうと思ったのか
そう、あれからもう七、八年経っていたのだ。
当時は練習したけれど、学祭が終わってからは当然踊る機会なんてなかったし、覚えているはずがなかったのだ。
そのせいで、ほとんど創作ダンスと化していた。
「♪〜」
それでも私は踊った。
ここまで来たら仕方がない。やり切るしかない。
コメント
:カオスすぎww
:ちょくちょく惜しいのよ
:深層ウェブにありそうな映像だな
:踊れてるほうじゃね?
:なんか可愛い気がしてきた(錯乱)
:ええやん、一生懸命なところ推せるわ
:歌いながら踊れるのすごいな
「チャンチャン!」
最後の振りを決め、よろよろになりながら画面に近づく。
進行もグダグダだし、踊りもうろ覚えだし、視聴者さん離れちゃってるだろうな……。
「上手いわね〜」
「え?」
コメント
:お、なんだ?
:話しかけられたw
:クソ気まずいやつw
:神展開きた!
隣を見ると、ショッピングカートに買い物袋を提げた優しそうなおばあちゃんがニコニコ笑顔で拍手してくれていた。
み、見られてたー!!
どうしよう、恥ずかしすぎる……。
ちゃんと踊れてるならまだしも、あんなクソうろ覚えの雑魚ダンスを見られてた……!
私は羞恥で耳まで真っ赤になるのを感じた。
日が落ちて暗くなっているのと、おばあちゃんなのもあり、お面には気づいていなさそうなのが不幸中の幸いか。
気づいているけど、触れちゃいけないと思われているだけかもしれないけど。
「あっ、ありがとござまーす」
コメント
:ござまーすw
:ん?声のトーン下がったな
:そりゃおばあちゃん相手に声作るのもおかしいだろ
:照れてるw
「頑張りなさいねえ」
「はい! 頑張ります! おばあちゃんも夜道なのでお気をつけて!」
「はいはい、ありがとうねえ」
コメント
:お気をつけてー
:おばあちゃんに優しいところポイント高い
:ダンスの練習してると思われたのかな?
「えー、はい、というわけでね」
コメント
:何事もなかったように戻ってきたw
:ダンス上手かったっす
:そんなに息切れてないの何気にすごくね?
:自分、推してもいいですか?ダンスに惚れました
私には初配信前、いやそれよりも以前からこれだけは言っておきたいと思っていることがあった。
それは奈央のことだ。視聴者からしたら、奈央――愛瀬七綺のことは、名前とイラストとみかくら高校公式サイトにほんの少しだけ載っていた紹介文でのことしか知らない。
本来、ここに立つのは私ではなく奈央のはずだったのだ。
奈央の夢の舞台――それを台無しにしてはいけないという思いでここまでやってきたけれど、一番大事なのは奈央のことを知ってもらうことである。
なので私は、自分の自己紹介もろくにしていないことにも気づかないままに奈央の紹介を始めた。
「最初にも言ったかと思いますが、私は……4期生からデビューされる予定の愛瀬七綺さんの代理という形でね、こうしてこの場に立たせていただいてるわけなんですが」
コメント
:そういやそうだった
:代理の個性強すぎィ!
:早くデビューできるといいよね
:七綺さんとは知り合いなんですか?
「彼女はみかくら高校からデビューできるのをとても楽しみにしてまして、今回はちょっと残念な結果になってしまいましたけども、彼女がデビューした暁には温かく迎え入れてあげてください」
コメント
:そらもちろんよ
:七綺ちゃんどんな子か楽しみ
:七綺ちゃんとはお友達なのかな?
:お友達?の紹介できて偉い
もう遅い時間だし、病院の規則を考えると奈央は観ていないとは思うけれど、アーカイブで観てくれたら嬉しいなあ。
初配信に寝坊しそうになった挙げ句、ノープランで現地配信することになり、雑魚ダンスまで披露してしまい。
結果的には惨敗。でも、インパクトは残せたと思う。
運営さんにすごい怒られそうだけど、その時はその時。
少なくとも視聴者さんは楽しんでくれていたみたいだし、多少はね?
その後は軽く自己紹介をして、いくつかの質問に答えて、私の記念すべき初配信は終了した。
せっかくなので、印象的だった質問を一つだけ挙げよう。
◇そのお面、近所のお姉さんがよく行く百均に売ってるのとそっくりなんですけど、もしかして近所のお姉さんですか?◇
私は「そうかもしれないねー」と答えておいた。
……それはそうと、ダンスのところ修正できないかなあ。
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