初配信に向けて②
※ディスコードは使ったことがなく、描写は想像でしかないので間違ってるところがあったらすみません。
帰宅する頃には日が落ちて辺りは真っ暗になっていた。
大寒波は過ぎたけれど、ちらほらと雪が降っていて体が芯から冷えた。
こんな日はすぐお風呂に入るに限る。あおしおうしさんとボイスチャットするのは二十二時からだし、先にお風呂で暖まっちゃおう。
* * *
冬場のお風呂は沼だ。暖かくて気持ち良すぎて、ついつい入りすぎてしまった。今の私はゆでダコみたいになっているだろう。
もちろん、水分補給も欠かしてないよ。
頭を乾かしながらスマホを見ると、一件の通知が届いていた。
確認するとそれはあおしおうしさんからだった。
『すみません、仕事が早めに終わったので二十二時じゃなくても大丈夫そうです。自分で時間指定しておいて身勝手は承知なのですがご都合合いますでしょうか』
もちろんそれで問題ない。むしろお話してもらえるだけでありがたいのだから、文句なんて出るはずもなかった。
私は『大丈夫です!!5分で準備するのでお待ちくださいませ!』と送って速攻着替えてパソコンを置いてある部屋に急いだ。
パソコンを開き、ディスコードにログインする。
あおしおうしさんは既にログインしていたので、『準備おけです』と送った。すぐに『わかりました』と返ってくる。
緊張の一瞬。あおしおうしさんはディスコードを用いてボイスチャットすることには慣れているのだろうけれど、私はそうじゃない。
しかも有名な絵師さんが相手ときたら、緊張しないはずがないだろう。
せめて映像は消してもらえるように今からでも頼もうかなと思ったけれど、もう遅かった。
『あ、あー。聞こえてますかね』
PCのスピーカーから聴こえてきたのは、ウィスパー気味で落ち着いた低音美声だった。
あまりの声の美しさに、私は思わず聞き惚れた。
『あれ、聞こえてないのかな。えっと……「私の声聞こえてますか」』
彼女が口にした言葉がそのまま文字で送られてきた。
しまった、ついぼーっとしていた。
私は慌ててあおしおうしさんとのビデオ通話に参加した。
「ご、ごめんなさい! 今来ました!」
『あ、オッケーです。初めまして、でいいんですかね。今日はよろしくお願いします』
「よろしくお願いします!」
スピーカー越しだからか声の良さがひときわ伝わってきて、思わず照れてしまう。
あおしおうしさんと実際に言葉を交わしてみてまず思ったことは、「優しそうな人だな」だった。
黒髪ショートボブから覗くお顔も声に違わず可愛いし、絵描きさんって不思議と可愛い人が多いような、なんて失礼にも思ってしまった自分を恥じつつ、私は自分の"ママ"となる彼女に向き直った。
『ちゃんとした挨拶はまだでしたよね。高谷さんのキャラクターデザインを担当させていただきました。時間があまりなくて急ごしらえになってしまったのですが、心を込めて描いたので気に入ってもらえるととても嬉しいです』
「本当にありがとうございます! どんなキャラクターなのかすごく楽しみです!」
『本当なら高谷さんの要望とかも取り入れたかったんですけど、なにせ時間がなくてですね……でもきっと高谷さんの眼鏡にかなってくれるんじゃないかなと』
その言葉とともに、トークルームに一枚の写真が添付された。
それは私が魂を吹き込むことになる"友ちゃん"の三面図だった。
単刀直入に言うと、友ちゃんのデザインはすごく可愛かった。
くりっとした瞳、肩までかかる髪は青色のグラデーションで、見た目的にはクールな印象を受ける。ゲームとか上手そうだ。私は苦手だけど。
不必要に胸が大きいとか露出が多いとかもなく、いかにも「女性が描いた女の子」という趣は男性だけではなく女性にも好かれそう。
そんな、私にはもったいないような女の子がこちらに笑顔を向けていた。
「すごく可愛いです!! え、こんな可愛くていいんですかってくらい可愛いんですけど」
『お褒めに預かり光栄です。失礼ながら高谷さんがどんな方なのかがわからなかったので、私の理想を多分に含ませてもらったのですが、何か希望とかありましたら応えられる範囲で応えさせてもらいます。高谷さんの体なので』
私は考えた。正直、今のままで全然オッケーだ。
強いて言うなら、可愛いすぎることくらいか。
こんな可愛い見た目から私の別に可愛くない声が出てきたら詐欺だなんて言われないか心配だ。
まあそれはそれとして、あおしおうしさんからいただいたこの素敵な体に何か私らしいアピールポイントがほしいような気がしてきた。
「少し待ってもらえますか?」
『わかりました。あれだったらイラストだけお渡しして明日中に要望を出してもらうとかでも大丈夫です』
「あ、いえいえ! この時間で考えるので!」
多忙のイラストレーターさんに流石にそんなことはさせられない。
私は頭をフル稼働させて、このイラストに何を追加すれば私らしくなるか考えた。
その結果……。
「あ、じゃあどこかにたい焼きつけれますか?」
『……え? たい焼き……ですか?』
「たい焼きです!!」
私の提案に、案の定あおしおうしさんは困惑しているようだった。
『それは……好きな食べ物とか?』
「はい! たい焼き大好きなので、私らしい要素かなあと思ったんですけどまずかったら却下していただいて大丈夫です」
『あ、いえいえ。なんとなく気になっただけです。まさかその角度からアプローチがくるとは思わなくて。でも……いいですね。たい焼きって庶民的な食べ物ですし視聴者さんにも親近感を持ってもらいやすいかも』
正直そこまで考えてなかったけれど、手応えは上々だ。
私の庶民的な感性が、キャラクターデザインにプラスに働いてくれたら嬉しい。
『正直、代理デビューって色々大変だと思うんですけど、高谷さんは高谷さんの持ち味を活かして活動すればいいと思います。せっかくのこういう縁なので何か聞きたいこととかあったら気軽に聞いてくださいね。私はVtuberではないので配信のアドバイスとかはできませんが』
あおしおうしさんは私を気遣ってくれているのだろう。
それは素直に嬉しかった。
Vtuberとはまた別の場所で頑張っている人から応援されると、それはそれで気が引き締まるなあ。
「ありがとうございます!」
私は素直に感謝を述べた。
その後、私はふとあることを思い出してなんとなく聞いてみた。
「あ、そういえば……」
『どうしました?』
「『すこつま』ってなんですか?」
「……どこで聞いたんですかそれ」
なぜか微妙な空気になった。
※次でこのパートは終わりで、その次からは1章の最後を飾るパートが始まります。(やっとあらすじ回収できる...)
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