初配信に向けて①

 初配信まで残り三日。当日が近づくにつれ、緊張がどんどん膨れ上がっていく。

 当日のことを考えるとお腹が痛くなるし、上手くいかなかったらどうしようとか考えてしまい体と心に悪い。


 『なんか思ってたのと違うなあ』『所詮は代理だよな』『こんな配信誰でもできるくない?』


 ついにはイマジナリーアンチまで生み出してしまい、私の心をチクチクと刺してくる。

 しかし、頭を振ってその幻想を払い除ける。

 今日は私のイラストを描いてくれるあおしおうしさんと初対面の挨拶を兼ねて音声チャットをすることになっている。

 中谷先輩が気を利かせてくれたおかげで、こんなにすぐにあおしおうしさんとお話をすることができることになった。

 とはいえ私が魂を吹き込むことになるキャラクターは既にほぼ完成しているらしく、今回はそれの目通しと軽い雑談な感じになるとのことだけれど。

 あおしおうしさんは人気イラストレーターさんなので、本当なら私と話す時間なんてないと思うのに、こうして時間を作ってくれてたのだから私が暗いままでは失礼すぎる。

 今のうちに質問とかまとめておいた方がいいだろうか。いや、質問なんかされても迷惑かもしれないしなあ。

 そんなことを考えつつ、私は仕事に向かった。




 * * *




 仕事終わり、駅で電車を待つ列の中で暇だったので公式アカウントからの通知しか来ないラインを確認すると、知らないグループに招待されていた。

 でも、すぐになんのグループかわかった。

 なぜなら、グループ名が「あおプロ」だったからだ。

 現実から一気に非現実に誘われるようだった。

 私はすぐに招待を受け、グループに入った。


『ご招待ありがとうございます!よろしくお願いします!』


 そう送ると、すぐに既読がついてメッセージが送られてきた。


『ご参加ありがとうございます。こちらはディスコードが使えなくなった時のための緊急用の連絡手段となります。とはいえ原則使うことはありませんので、諸々の連絡事項や他タレントとのコミュニケーションはディスコードのほうでお願い致します。ディスコードのリンクを貼っておきますのでご確認くださいませ。』

『了解しました。ありがとうございます。』


 なるほど、つまりここはディスコードが使えなくなった時のための避難所のようなものなのだろう。

 そう言われれば確かに、参加しているアカウントは誰が誰だかわからなかった。

 私はディスコードのリンクを踏んで、「あおプロタレント」というサーバーに参加した。

 以前事務所でオーディションを受けたときに、みかくら高校用のディスコードアカウントを作っておいてくださいと言われてたんだよね。

 そこでも挨拶を済ませると、先輩方が何人か挨拶してくれた。

 当たり前だけど、初めましての人が多かった。

 というより、先日顔合わせした1期生の先輩以外全員初対面だ。

 でも、皆さんいい人そうだ。雰囲気も職場の堅苦しい感じではなく、友達同士のようなフランクな感じだった。


 あ、そうだ、と私は伝えておかなければならないことを思い出した。


『すこる先輩、この前はありがとうございました!』

『なになに?』

『先輩、新人にナニ教え込んだの?』

『手が早い』


 私が言葉足らずだったせいで、変な誤解を生んでしまった。

 慌てて訂正のメッセージを送る。


『いえいえ!変な意味ではなくて!あおしおうしさんとお話する機会を設けていただいたのでそのお礼を...』

『あーね』

『なんだ新人にいかがわしいことしたのかと思った』


 心なしか残念そうなのは気のせいだよね?


『初配信3日後だよね?頑張ってね、友ちゃん・・・・

『そうか!もうすぐじゃん!応援してる!!!』

『ありがとうございます!!逝ってきます!!』

『はやまるな、逝くのはまだはやい』


 はっきり言って、みかくら高校の皆さんのことはほとんど知らない。

 名前と顔が一致するのは先日ご挨拶をさせていただいた1期生の先輩方くらいのものだし、これから他の先輩方にも自分のことを知ってほしいと思う。

 そのために私ができることはなんだろう?

 ……いや、自分のイラストを担当してくれる絵師さんとお話する前に考えることじゃないな。

 とりあえず深くは考えず、自分が思うようにやってみよう。

 悩むのはその後からでも遅くはない。

 私は心新たに、丁度到着した電車に乗り込んだ。

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