1期生との初対面①
次回からみかくら高校のVtuberが出ると言ったな。あれは嘘だ。
その代わり二回更新します。
Vtuberは次の話で出ます。
事務所に足を踏み入れた私は、まず萎縮せざるをえなかった。
見渡す限り、大人、大人、大人――
そこに広がっていたのは、しっかりとした"会社"の風景だったのだ。
Vtuberの事務所ということで、なんとなく砕けたイメージがあったけれど、全然そんなことはなかった。
まあ企業なのだからそりゃそうなのだけれど。
ただ、皆さん優しそうな方ばかりで少し安心した。
「こんにちは! 面接に伺った高谷と申します!」
第一印象は最初の3秒で決まると聞いたことがある。
誰が言い出したのか知らないけれど、それが私にはやけに信憑性があるように思えたのでその理論を信じることにした。
だから、まずは印象をよく持ってもらうために挨拶は元気よく。
この時点では誰に面接をしてもらうのかわからないから、なんとなく近くにいて話しかけやすそうだった人に向けてアピールしてみた。
するとその人が親切に私を奥の部屋に案内してくれた。
「青崎社長、高谷さんがお見えになりました」
社長という言葉が聞こえたとき、一気に気が引き締まった。
社長に直接面接受けるのか……!
面接官複数人に受けるのかと思ってた……。
「どうぞ〜」
と思っていたら、扉の中から聞こえてきたのは可愛らしい女性の声だった。
青崎ぐんぐにるさんのことは調べて名前は知っていたのだけれど、配信を観たわけではなかったからどんな声なのかまでは知らなかった。
でもそのおかげで、緊張が少し解けた。
「大変でしょうけど……応援してますね!」
「ありがとうございます!」
私を案内してくれた人はニコッと微笑みかけてくれた。
本当にいい人だな……。きっとこの職場の雰囲気がいいから、こういう人が集まるんだろうな。
「失礼します!」
社員の人に癒やされたままの気持ちで扉を開くと、そこは事務室だった。
事務机が複数置かれていて、その上にはモニターと難しそうな機械。
書類も山積みに置かれていて、きっとこの部屋で新しいものが生まれていくんだろうなと感じさせる熱意がそこにはあった。
机では男性二人と女性一人が作業をしていて、一人だけ一番奥の机についている彼女が私に笑いかけた。
彼女がここの社長である青崎ぐんぐにるさんで間違いないだろう。
「初めまして! ここの社長をしてます青崎です。ご足労いただきありがとうございます」
「初めまして。今日はよろしくお願いします!」
初見の印象は、とにかく優しそうな人だな、だった。
それと、かなりお若く見える。見たところ、20代後半……下手したら私と同い年の可能性だってある。
「どうぞそちらの椅子におかけください。狭いところで申し訳ないのですが」
「いえいえ! 失礼します」
私は言われた通り、傍にあった椅子に座った。
こんな感じで進むのか。思ってたよりもラフなんだな。
「お名前伺ってもよろしいですか?」
「はい! 高谷陽南と申します! こざとへんの方の陽に……」
「あ、漢字は大丈夫ですよ〜。履歴書はいただいているので」
「あっ……す、すみません。そうですよね。あはは……」
あはは、じゃないだろ私! なに天然ボケかましてるの!
おかしい、面接は初めてじゃないのにこんな初歩的なミス……いつもとは勝手が違って調子が狂っているのかもしれない。
でも、こんなミスをしたのにも関わらず青崎さんは優しい微笑みをたたえてこちらを見てくれている。
よし、ここから挽回するぞ!
「今回は少し特殊な例というか、高谷さんは
「はいっ、仰る通り、白水の代理としてお受けさせていただきました!」
「わかりました。ご確認ありがとうございます。一応お尋ねしますが、Vtuberとかってご覧になったことはありますか?」
嘘をついてもしかたないので、ここは正直に答えよう。
「あ〜……ごめんなさい、勉強不足でして……ですが、配信活動を通してたくさんの方に夢を与えている方達だと聞いています。その活動は素晴らしいと思いますし、共感したので今回お受けさせていただきました」
わからないで済ませるのではなく、配信活動に興味があるという意思をしっかりと印象づける。
面接において大切なことは、Vtuber企業だろうが一般企業だろうが変わらないだろう。
「ありがとうございます。それでは配信活動を行ったりしたことはありますか?」
「ないです……ね」
「そうですか。そりゃありませんよね普通は。でも安心してくださいね。私達がしっかりとサポートさせていただくので」
「ありがとうございます。お世話になります……なんか採用されたみたいな感じになっちゃいますけど」
「ああ、その件でしたら採用で」
「そうですよね、採用ですよね。…………え?」
「こうしてお話させていただいて、高谷さんなら大丈夫だと判断しました。ぜひ私達と一緒に弊社を盛り上げていただけませんか? もちろんお返事はすぐじゃなくても――」
「ぜひっ、ぜひぜひ! よろしくお願い致します!」
私は気持ちが先ばしって、青崎社長が言い終わるよりも早く返事をしてしまった。
してからすぐはっとして、身を乗り出した体勢から元に戻る。
多分、顔は真っ赤になっていたと思う。
「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫ですよ。むしろ、弊社に価値があると思っていただけたようで光栄です」
「はい、それはもう、もちろん!」
まさかこの場で結果を告げられるなんて思っていなかったから、驚いてしまった。
もしかしたら、ほぼ受かる前提の面接だったのかもしれないけれど、それでも合格は合格である。
奈央、私やったよ!
「これからの予定は柚原さんに聞いてくださいね。彼女が高谷さんのマネージャーになるので。ちょっと感情表現に乏しい子ですけど仕事はできるんですよ」
「はい! 柚原さんですね! 不躾ですが柚原さんの特徴とかはありますでしょうか……」
「せっかくなので一緒に挨拶しましょうか」
「あ、そうですね! よろしくお願いします!」
私は青崎社長の後に続いて事務室を出た。
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