実写多めのネタ系Vtuberグループ②

 奈央の代わりに「みかくら高校」の新人Vtuberとしてデビューするという提案が、事務所に受理されました。


 はい、やばいです。

 外堀を埋められるとはこういうことか。

 まあその提案に乗ったのは私なのだけれど。

 「どうせ却下されるだろう」という気持ちが全くなかったかといえば、嘘になる。

 ただ、現状を嘆いていてもどうしようもないのも分かる。

 今は自分の置かれた状況をしっかり受け止めて、何をするべきなのかを考えることが先決である。


 まず、私の置かれた状況である。

 奈央から聞いた話を要約するとこうだ。

 奈央が回復して配信を始められるようになるまで「みかくら高校」の4期生として私が代わりにデビューすることになるのはさっき話した通りだけれど、それはそれとして面接を受けなくてはならないらしい。

 面接というワードを聞いたとき、心臓がきゅっと苦しくなった。

 面接は苦手だ。人生で面接を受ける回数なんて、少ないほうがいいに決まっている。

 奈央はそんなに気張らなくてもいいと言っていたけれど、生憎私はそんなに楽観的な人間ではない。

 面接というくらいなのだから、服装から清潔感から所作から隅々までチェックされることになるのだろう。

 今働いている会社の面接のときも、面接官の人の視線が怖くて怖くて仕方なかった。

 Vtuber事務所ということでそこまで格式ばったものではないだろうけれど、それはそれで緊張するというもの。

 どんな感じの面接だったのか、奈央からまた聞いてみよう。

 ていうか、もし面接で落ちたらかなり恥ずかしいな……。


 そして次に、デビュー配信の日程。

 面接の話をしたけれどそれはほぼ顔合わせみたいなもので、致命的な問題がない限りほぼほぼデビューは決まったようなものらしい。

 奈央は事務所から次々と今後の予定を伝えられたようで、その中に私のデビュー配信日程もあったのだそう。

 奈央の話によると、私は今から二週間後の土曜日にデビューすることになるらしい。

 順番で言うと、一番最後。トップバッターの蓮道寺かくりよ、二人目の井手駒こますと続いて私ということになる。


 そう、トリである。

 目眩がする。

 まあ、諸々のゴタゴタを考えると妥当な順番だとは思うけれど、緊張が半端ない。

 ちゃんと奈央の代理を全うすることができるのだろうか。

 はっきり言って、不安でしかたがない。

 本当ならずっと奈央と話していたいけれど、病人なので負担をかけるわけにもいかないし。

 でも、私を気遣ってか奈央が定期的に「大丈夫?」とか「緊張してる?」とかメッセージを送ってくれるので、かなり救われている。

 奈央も無茶なお願いをしたという後ろめたさがあるのだろうか。

 奈央の気持ちを考えると頑張りたいけれど、果たして上手くいくのかそれだけが心配だった。




 * * *




 面接当日。デビュー一週間前だった。

 例によって、緊張はマックス。

 昨夜なんて緊張しすぎて下痢だったし、仕事の案件で緊張する時などによく聴く「お姉さんに応援される音声」を聴きながら寝たくらいだ。

 何があっても寝坊しないように目覚ましを分刻みで設定したのが功を奏し、今朝は余裕を持って起きることができたしコンディション的には良し。

 あとは奈央に言われた通り、自然体でいくだけ。

 ちなみに、Vtuber事務所のオーディションだからと奇をてらったことはしなくてもいいらしい。

 ただ、それはあくまでも私が奈央の代理として呼ばれているからであって、正式なオーディションだとただ真面目なだけの応募者はまず落とされると聞いた。

 エンタメの世界は厳しいんだな。


『落ち着いてって言われても難しいかもしれないけど陽南なら大丈夫だって信じてる』

『うん、頑張ってくる』

『よしよし』

『あ、それと』

『うん?』

『元気になったらご飯奢ってよね』

『もちろん。なんでも奢るよ』

『いいレストランな』

『はいはい』


 私は奈央とのラインのやり取りを終え、眼前にそびえる建物を見上げる。


 『タキハラオフィス』——「みかくら高校」を擁立する『あおプロ』の非公開スタジオである。

 つまり、「みかくら高校」のVtuberたちが収録などに訪れるスタジオ。

 本来のオーディションはまた別の非公開事務所で行われるとのことだけれど、今回は特例として直接ここでオーディションを受けることになった。

 それが意味するところは、「頼むから採らせてくれ」に他ならないわけで。

 事務所からしてみれば、私は窮地に現れたヒーロー。

 最初から期待値ましましの中、面接を受けなければならないのだ。

 ある意味、普通にオーディションを受けるよりも緊張しそうだけどここまで来たらやるしかない。

 私はゆっくり深呼吸をして、決死の覚悟でオフィスの門を叩いたのだった。







 ※次回からついにみかくら高校のVtuberが登場します。

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